2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の夜間中学とその生徒:ポスト・コロニアルの東アジア社会変動論の視座から
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25380673
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
浅野 慎一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (40202593)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 夜間中学校 / 中国残留日本人 / マイノリティ / 義務教育 |
Research Abstract |
下記の5点の研究を実施した。 ①全国夜間中学校研究会等の1950年代以降の基本資料(大会資料集、同記録集、調査報告書等)を収集・整理した。電子化・公開を視野に入れ、より保存状態のよい資料の捜索・収集に心掛けた。収拾した資料は1950年代から2013年までの史料で、計約600点である。②すでに所在を確認している資料のうち、散逸・劣化のリスクが特に高いものを収集した。主に1950年代~1960年代の資料で、その数は約600点、①のそれと合わせて1200点となる。③収集した資料の一部を、公開に向け、パイロット的に電子媒体化の作業を行った。そこで生じたいくつかの技術的問題点とその解決法について、専門業者との打ち合わせを実施した。④1956年以前の夜間中学校資料の分析・整理に基づき、論文「戦後日本における夜間中学校の卵生と確立:1947~1955年」を執筆し、『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』に投稿した。本紀要は2013年度末に刊行予定だったが、若干遅れ、近刊予定である。なお当初、1968年以前の夜間中学校の実態について一括して分析する予定だったが、各種資料踏査の結果、まず1956年以前の時期区分で総括することが妥当と判断するに至った。⑤夜間中学校の生徒の中で大きな位置を占める中国残留日本人の生活史と意識について、Tong Yan and Shinichi Asano "Blood and country :chugoku zanryu koji, nationality and the koseki"David Chapman and Karl Jacob Krogness ed.Japan's household registration system and citizenship, Routledge を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、戦後日本の夜間中学、およびそこで学ぶ生徒の労働-生活・社会意識の実態と変遷を明らかにし、その歴史社会的意義を、ポスト・コロニアル時代の東アジアにおける社会変動との関連で考察することにある。あわせて、散逸・劣化の危機に瀕している夜間中学関連の膨大な一次資料を収集・整理し、電子媒体化することにより、将来にわたり研究者・関係者が広く活用しうる形で保存・公開する。 こうした目的の下、2013年度に予定していた4つの課題のうちの3つ、すなわち①基本資料の収集、②特に散逸・劣化のリスクが高い資料の収集・保全、③暫定的な時期区分の検証については、所期の目標をほぼ達成できた。特に本格的な公開・保存に向けた電子媒体化については、当初計画を超え、パイロット的な作業にも取り組み、専門業者と技術的な打ち合わせの段階に進むことができた。 残る一つの当初予定計画④1968年以前の夜間中学とその生徒に関する資料読解については、③の時期区分の検証をふまえ、1956年までのそれに限定して実施した。ただし、当該年次までの資料読解は、当初計画を超え、論文にまとめ、投稿することができた。 さらにこれも当初計画を超え、夜間中学生の中で大きな位置を占める中国残留日本人の生活・歴史・意識等について、海外研究者からの依頼に応じ、英語論文を発表し、研究成果の一端を海外に発信することができた。 さらに全国夜間中学校研究会のメンバーと、今後の資料収集・整理・資料目録作成等について、東京で1度、奈良で1度、神戸で1度、研究打ち合わせ会議を開催した。これにより、来年度以降の研究・資料収集の計画が一層明らかになった。 以上の理由により、本計画の達成度は、一部は「当初の計画以上に進展している」といえるが、全体としてみれば「おおむね順調に進展している」と評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、次の6つの研究計画を実施する。 ①個別の学校に関する資料を含め、夜間中学関係の歴史資料をさらに継続的に収集・整理する。2014年度は特に、首都圏・近畿圏・福岡県等での資料収集に力を入れたい。②全国夜間中学校研究会と緊密に連携し、各資料の歴史記録的・学術的・教育実践的価値を吟味・評価し、必要に応じて電子媒体に加工して保存する。本年度に実施したパイロット的作業の中で明らかになった技術的課題を解決し、公開に耐えうる質のものとなるよう加工技術の一層の改善を図る。③資料の公開は本格的には2015年度(全国夜間中学校研究会創立60周年)に実施することとなるが、それに向けて技術的課題を検討する。また著作権・肖像権等に留意し、当事者・関係者との緊密な協議を重ね、最も適切な公開方式を2014年度中に確定する。④毎年12月に実施される全国夜間中学校研究大会を軸として、年に数度の研究会・打ち合わせ会議を組織・実施する。2014年度は、東京・神戸で3回を予定している。⑤収拾した資料を、歴史時期区分ごとに分析・総括し、関連学会での口頭報告、学術論文として公表する。さらに最終的にはそれらの成果は学術書として刊行する。⑥夜間中学生の中で大きな位置を占める在日韓国朝鮮人、中国残留日本人、その他在日外国人、不登校経験者等に対するインテンシヴなインタビュー調査を継続し、生徒のトータルな生活と意識をふまえ、各時期の夜間中学が果たした歴史・社会的意義・役割をさらに詳細に検証していく。これらも適宜、学会報告・論文として発表していく。 全体として、当初の研究計画に大きな変更はない。まずは2015年12月の第61回全国夜間中学校研究会(60周年記念大会)に一定の歴史資料を公開し、それらをふまえた学術的成果を論文の形で公表できるよう、周到に準備を進めていきたい。
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Research Products
(2 results)