2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の夜間中学とその生徒:ポスト・コロニアルの東アジア社会変動論の視座から
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25380673
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
浅野 慎一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (40202593)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 夜間中学校 / 東アジア / 中国残留日本人 / 義務教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、下記の9点の研究を実施した。 ①個別の学校に関する史料も含め、夜間中学関係の史料を新たに約2000点収集し、整理・検討の上、必要に応じて約1000点について電子化・保存作業を実施した。②全国夜間中学校研究会と連携し、各資料の歴史記録的・学術的・教育実践的価値を吟味・評価する研究会を2回(東京・神戸)実施した。③2015年度に予定している全国夜間中学校研究大会関係の史料公開に向け、技術的課題、及び、著作権・肖像権等の諸課題を検討し、最も適切な公開方針について関係者・関係機関と継続的に審議した。④第60回全国夜間中学校研究大会(11月27-28日)において、史料の保存作業の進行状況について中間報告を実施した。⑤福岡市の自主夜間中学において調査・資料収集を実施した。⑥三重県上野市崇広中学校において1950年代に存在した夜間中学校の調査・資料収集を実施した。⑦夜間中学校の生徒の中で大きな位置を占める中国残留日本人の生活史と意識について、約30名の当事者からインタビュー調査を行った。⑧同じく中国残留日本人に関して、浅野慎一「中国残留日本人孤児をめぐる諸論点と先行研究の批判的検討(上篇・下篇)『神戸大学大学院人間発達環境学研究科紀要』8巻1号・2号の2本の論文を発表した。⑨研究課題の副題にあるポスト・コロニアルの東アジア社会変動論の視座を確立する作業として、「国土のグランドデザインと『生活圏としての地域社会』」に関する報告(地域社会学会第2回研究例会)、及び、記事報告(『地域社会学会会報』187号)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、戦後日本の夜間中学、及び、そこで学ぶ生徒の労働-生活・社会意識の実態と変遷を明らかにし、その歴史社会的意義を、ポスト・コロニアル時代の東アジアにおける社会変動との関連で考察することにある。あわせて、散逸・劣化の危機に瀕している夜間中学関連の膨大な一次資料を収集・整理し、電子媒体化することにより、将来にわたり研究者・関係者が広く活用しうる形で保存・公開する。 こうした目的の下、2014年度に予定していた3つの諸課題について、いずれもほぼ当初の見込み通り、それ以外の諸課題は当初予定より前進する形で研究を進めることができた。具体的には、①個別の学校に関する史料収集は、現存する多数の公立中学校の基本史料の収集が順調に進んでいるだけでなく、すでに廃校になった三重県の学校、福岡市の自主夜間中学等からも貴重な資料の入手が実現した。②資料の価値評価、及び、保存用加工の技術的諸課題についても、多様な観点からの評価、検討が進んでいる。③当事者・関係者との研究会は当初3回を予定していたものが2回の開催にとどまったが、内容的には十分に価値あるものが実施しえた。さらに、夜間中学生の中で大きな位置を占める中国残留日本人に関する調査研究の進展、及び、東アジアの社会変動に関する学術報告・記事の発表等は、当初必ずしも明確に予定されていなかった新たな成果である。 以上の理由により、本研究の達成度は、一部は「当初の計画以上に達成している」といえるが、全体としてみれば「おおむね順調に進展している」と評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、2015年度・2016年度には、次の研究計画を推進する予定である。 2015年度には、①全国夜間中学校研究会60周年記念大会に合わせ、全国夜間中学校研究会大会関係資料を電子媒体化し、正式に公開する。②大会関係以外の資料については、引き続き収集・整理・保存作業を進める。③各種資料の学術的・歴史記録的・教育実践的意義を検討し、戦後日本の夜間中学の歴史的変遷を解明する研究会を2回(京都・神戸)開催する。④夜間中学の生徒の中で大きな位置を占める中国残留日本人・在日韓国朝鮮人・不登校経験者等に対するインテンシヴな調査研究を一層推進する。④ポスト・コロニアルの東アジアの社会変動に関する基礎研究を推進する。 2016年度には、①大会関係以外の資料の電子媒体による保存事業に一定の区切りをつける。②これまでに収集・分析した歴史資料をふまえ、夜間中学の歴史に関する学術論文・学術書の刊行、学会での報告を行う。③研究計画全体の理論的・実証的な総括を行う。 全体として、当初の研究計画に大きな変更はない。当面は2015年12月の第61回全国夜間中学校研究会(60周年記念大会)に向けて、大会関係の史料を公開し、それらをふまえた学術的成果を論文等の形で公表しうるよう、周到に準備を進めていきたい。
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Research Products
(5 results)