2013 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・コンフリクト社会におけるマイノリティの持続的残留
Project/Area Number |
25380674
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70215929)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / ポスト・コンフリクト社会 / 多民族共生社会 |
Research Abstract |
本年はボスニア・ヘルツェゴヴィナにおけるマイノリティ(少数派民族)の残留と世代的な再生産を支える要因を三つの地域で調査し分析した。主要な知見は次の通りである。 まず基本的要因が二つある。第1に生命と財産の安全が保障され、住民が安心して暮らせることである。第2は生活基盤の存在である。これはさらに二つに分けられる。一つは住居とインフラストラクチュアである。もう一つは生計手段の存在である。これは帰還者が定住するためには不可欠の条件である。たとえ住宅を再建できたとしても、そこで生活が成り立たなければ住み続けることができないからである。 しかし、マイノリティの残留はこれらの要因だけで支えられているのではない。プラスアルファの要因がいくつかある。これを「付加的な要因」と呼びたい。その一つは「生活上のたくましさ」ないし「ヴァイタリティ」である。それは生き延びるためには(犯罪は別として)何でもやる意欲と能力である。第2はコミュニティ(共同体)の存在、あるいは、血縁、地縁、信仰上の共同体などゲマインシャフト的な関係の存在である。人は様々な事情により困難な状況に陥ることがある。このような場合、家族・親族、友人・隣人、宗教組織など共同体的な関係から得られる支援が住民の窮地を救っている。 付加的な要因の第3は「故郷への特別の思い」である。これには二つがある。一つはここが自分の故国であり、故郷だという思いである。内戦中に迫害に耐えて居住地に残留したマイノリティ住民はこのような故郷へのこだわりをとくに強くもつ。この思いは慣れ親しんだ土地で生活したいという願いにつながり、避難民にとっては元の居住地へ帰還する大きな動機になった。もう一つは故郷やそこに住む同胞に貢献したいという考えである。これはある種のナショナルな使命感であり、一部のマイノリティ住民にとっては帰還と残留の決定的な要因になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はポスト・コンフリクト社会にマイノリティ住民として生きる人びとを主な調査対象とし、多民族共生社会の再建をこの地域の将来課題と見据えて、マイノリティの持続的残留の条件を明らかにすることを目的とする。 そのためにはマイノリティ住民の残留と再生産を支える要因を現状分析の中から明らかにする必要がある。本年度はこの課題をボスニア・ヘルツェゴヴィナの三つの地域で実行したインタビュー調査の分析によって果たすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ボスニア・ヘルツェゴヴィナは政治的には地方分権が進み、地域によって民族構成も大きく異なる。このような地域的な多様性をとらえるために、なお多くの地域で調査を実行する必要がある。そのために同時並行的に他の地域での調査も進めている。次年度はさらにこれを進め、分析結果を示したい。 なお今年度の調査の中でマイノリティ住民の帰還と残留を困難にしている要因として雇用や就職の「縁故主義」があることが分かった。次年度はこの点に焦点を当てこの地域の特殊な問題を浮かび上がらせたいと考えている。
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Research Products
(1 results)