2014 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・コンフリクト社会におけるマイノリティの持続的残留
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25380674
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70215929)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / セルビア人 / 世代の再生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦の2つの地域で現地調査を実施した。1つはモスタール郊外の帰還地域である。ここでは少数派民族のセルビア人が持続的に残留し、世代的な再生産の可能性が見えている。もう一つはドゥルヴァールとその郊外地域である。当地はボスニア連邦の中でセルビア人の帰還者がもっとも多い地域であるが、郊外の帰還地域では中高年世代の住民が大部分を占め、世代的な再生産の可能性が見えない。 両者の違いはどこから来るのか。それは都市の活力の違いに由来する。具体的には次の五つの点でモスタールはドゥルヴァールよりも格段に活力がある。第一に人口規模である。第二に就業機会である。第三に消費市場である。モスタールには10万人を超える居住者がいる。郊外の農業従事者は、農産物を市場で販売し、現金収入を得る機会ができる。ホテルや飲食店など観光関連産業での雇用機会もある。第四に教育環境である。モスタールでは様々なレベルと内容の高等教育を受けることができる。第五に医療環境である。モスタールには総合病院が二つあるが、ドゥルヴァールには診療所しかない。 このような事情から、モスタールの帰還地域では帰還者が残留しているだけでなく、世代的な再生産のサイクルが見通せるようになっている。 だが都市の活力では劣るが、ドゥルヴァールにはモスタールに優る点が一つある。それは基礎自治体の政治権力をセルビア人が握っていることである。これはドゥルヴァールに帰還したセルビア人に大きな安心感を与え、場合によっては様々な便宜供与を期待できるので、帰還住民の残留を支える要因の一つになっている。 これに対し、モスタールでは人口比率が小さいセルビア人は基礎自治体の政治から排除された状態にある。モスタールにおけるセルビア人帰還者の世代的な再生産が本格的な軌道に乗るためには彼らの政治への参加が実現する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は多民族の共生社会の再建を将来の課題と見据えて、ポスト・コンフリクト社会にマイノリティ住民として生きる人びとの生活を調査し、マイノリティ住民の持続的残留の条件を明らかにすることを課題とする。 そのために平成25年度では、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの三つの地域で住民にインタビュー調査を実施し、マイノリティ住民の持続的残留を支える要因を明らかにした。 平成26年度はマイノリティ住民が持続的に残留している二つの地域でインタビュー調査を行い、マイノリティ住民の世代の再生産を支える要因を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
多民族の共生社会の再建のためには、マイノリティ住民の持続的残留が実現しているだけでは十分ではない。マイノリティ住民がその社会にどの程度統合されているかを見る必要がある。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの現状ではマイノリティ住民に対する雇用差別が存在し、彼らは被雇用者として生きていくことが困難である。そのため持続的に残留する者の大半は自営業で生計を立てる者である。企業や行政組織に雇用されているマイノリティ住民はきわめて少ない。これではマイノリティ住民は全体社会に十分に統合されているとはいえない。マイノリティ住民の現状を統合の観点から掘り下げて分析し、この国の将来課題を明らかにすることを今後の研究課題としたい。
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Research Products
(1 results)