2015 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト・コンフリクト社会におけるマイノリティの持続的残留
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25380674
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70215929)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 失業問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
ボスニア・ヘルツェゴヴィナの各地域において残留するマイノリティ住民の中には、年金生活者を別にすると農業・自営業や日雇い仕事によって生計を維持している者が非常に多い。安定した就職の機会が乏しいためである。マイノリティが持続的に残留を続け、世代の再生産が実現するためには、就職難を解決することが必要である。このことから本年度はこの国の失業問題の原因と構造を分析した。 この国では労働力人口の半数は失業者である。とくに若者の失業率は60%を超える。この国では内戦後の20年間、極度の就職難が続いている。内戦後の就業人口は内戦前に比べて実に4割も減少した。 大量の雇用喪失はユーゴスラヴィア連邦解体と内戦の影響によって生じた。統一的な国内市場を失った企業は倒産に追い込まれた。内戦時に破壊されたり、略奪されたりして操業や営業を停止した企業も多い。さらに内戦時には民族的理由による従業員の解雇も多くの失業者を生み出した。 しかしその後の失業問題には内戦後の要因がある。一つは難民の帰還が進み、失業者が増加したことである。もう一つはリーマン・ショック以降の欧州経済の不況があり、その影響を受けて企業倒産が増加したことである。これには移行期経済に関係する特殊な要因が作用している。それは企業民営化の否定的な影響である。民営化後の企業倒産によって少なくとも数万人規模の失業者が発生したといわれる。 他方、就業機会の不足は昔からの悪しき慣行を助長している。それは縁故採用である。極度の就職難の中でも一部は縁故採用によって安定した地位と相対的に高い収入を手にしている。就業機会の不足の故に縁故就職に頼る者が増えるが、そのために有力な縁故を持たない者はますます就職が困難になる。この国の就職難は単に就業機会の不足によるものではなく、縁故採用の壁によって助長されている。極度の就職難を緩和するためにはこの壁を崩す必要がある。
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