2015 Fiscal Year Research-status Report
精神医療の変化と精神障害者処遇の課題―患者の権利や種別的処遇をめぐる議論等から―
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25380679
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
喜多 加実代 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30272743)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 医療・福祉 / 刑事法学 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、精神保健福祉法(及びそれ以前の精神保健法・精神衛生法)や心神喪失者等医療観察法の成立過程(及び触法精神障害者の処遇として提案された保安処分案)でなされた議論について、課題や問題設定の変遷を考察することを目的とするものである。その考察に際して、M.フーコーやI.ハッキングの研究が有用であると考えており、彼らの研究を再検討することも併せて行うこととしている。 2015年度には、保安処分や心神喪失者等医療観察法の議論の中心的な位置におり、また精神保健福祉法関係でも発言をしていた平野龍一の変遷に着目して、フーコーやハッキングの知見から考察を行った。平野は、心神喪失者等医療観察法成立直後の2004年に「犯罪行為を行った精神障害者(触法精神障害者)の処遇」法が成立したことを、「長くこの問題に関心を持ってきた者としては、やっとここまできたかという感慨を禁じえない。」と述べた。確かに平野は1950年代から保安処分に関する議論の中心的な位置にいたのであるが、1957年には「〔犯罪行為を行った〕精神病患者だけを、その治療のために拘禁するというのでしたら、それはむしろ保安処分否定論で、ただ病院だけおけばよい。」と述べており、想定される対象や課題は、1950年代と2000年代とでは対照的ですらあった。 もちろん平野は彼の信念や独自の論理も有しており、また彼の中の変化もあるが、平野の主観に即せば「この問題」と同一に語られてしまう問題がある。むしろこの問題設定を規定したものが何であるか、を見る必要がある。フーコーは「著者(auteur)」でなく言説に注目し、ハッキングは、観念の変遷とともに「その中で観念ないしは概念や種が形づくられる社会的な状況」(=「マトリックス」)を捉える必要があるとした。この違いを捉えようとする際、彼らの指摘は重要なものとなり、かつその意義が明確になることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2013年から2014年に学内図書館の工事があり、その時点での遅れを取り戻せなかったことに加え、2015年に外れる予定であった学内業務が継続となり、更に予定が遅れてしまった。(そのため2016年に研究を継続して実施する。)
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Strategy for Future Research Activity |
精神障害者のノーマライゼイションや開放処遇の指向と、精神障害者のうち触法者を別に処遇する指向との関連を更に詳細に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
研究の遅れから、新たに資料収集を行う以前に資料の整理と読み込みが必要となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費(図書費)やその他(複写費)として資料収集に使用するほか、学会や研究会に参加するための旅費として使用する。
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