2015 Fiscal Year Research-status Report
戦前期の愛楽園とその療養生活に関する実証的・理論的研究
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25380692
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 文哉 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (90305798)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 沖繩MTL相談所 / 沖繩MTL報告(書) / 國頭愛楽園 / 「癩予防法」 / 「癩予防二関スル法律」 / 服部團次郎 / ハンセン病問題 / 日本MTL |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、課題Ⅱ「愛楽園における療養生活の諸現実」及び課題Ⅲ「愛楽園の運営実態」を軸にする予定であった。だが、これまで不明であった沖繩MTLの機関誌「沖繩MTL報告書(特別記念號)」(同機関誌第三号に相当)の発見により、前年度の研究主題の一つとして掲げた課題Ⅰ「愛楽園開園前史の解明」において欠落していた沖繩MTLの活動実態の全貌を明らかにしうる機会を得たため、その作業を優先させた。 この作業の中で、「沖繩MTL会則」(1936)の論理構成を考察する際に、1907年の「癩予防ニ関スル法律」及びその改正法である1931年の「癩予防法」、更に「日本MTL会則」(1926)を比較・照合し、それらとの関連を把握する作業が必要になり、次年度に予定していた「課題Ⅴ」の「沖縄縣と癩予防法の関連の解明」に着手することになった。 伝染病としての病気観を前提に、療養所に収容された病者の慰問を使命とする日本MTLは、療養所の存在を前提に会則を定めることができた。それに対して、沖繩本島区に療養所が未整備であった環境の中で、沖繩MTLは、「癩患者ニシテ病毒伝播ノ虞レアルモノ」の療養所への収容を目的とした1931年法をそのまま踏襲することは現実的ではなかった。当時の沖縄の状況は、むしろ「療養ノ途ヲ有セス且救護ナキ者」の恤救を目的とした1907年法下の現実に近かったため、1931年法の内容を盛り込みつつも、1907年法を範とする会則を構築せざるを得なかった点に、沖繩MTLが抱える固有の事情があったことがみえてきた。次なる課題としては、「沖繩MTL相談所」の構築を支援した三井報恩会への論及を準備し、更に、1907及び1931年法に関わり、当時の沖繩縣が発令した「施行細則」「施行手続」の比較・考察を通して、当時の沖繩縣のハンセン病問題を照射しつつ、沖繩縣と内務省との関連を考察する作業が、残された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したとおり、これまで不明であった「沖繩MTL」の機関誌「沖繩MTL報告書(特別記念號)」の発見という予定外の事態が起きたため、研究計画の変更が迫られた結果、当初の問題関心が、想定していたものとは別のルートを経由して、深まっていくということが起きた。 沖縄のハンセン病患者たちと「癩予防法」というネクサスではなく、沖繩MTLと「癩予防法」、「沖繩縣と癩予防法」というネクサスを迂回して、当時の沖縄社会に「癩予防法」が作用していた点を踏まえること、このことを一つの準拠枠として設定し、もう一度、当時のハンセン病患者たちの個々の現実を照射することが必要であり、重要であるという知見を得ることができた。この知見を得たことにより、今後、より豊かな着想を孕むことができるのではないかと考えられるが、研究の広がりという点で、当初掲げた研究課題は、もう少し限定を付すべきではなかったか、という反省点も残る。本研究に着手して以来、三年目にして、本研究課題の設定の仕方に潜伏していた限界点もみえてきてしまいはするものの、本研究課題そのものの進捗状況としては、それなりに進んではいる。
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Strategy for Future Research Activity |
不明文献の発覚という予定外のことが起こり、課題Ⅱ「愛楽園における療養生活の諸現実」及び課題Ⅲ「愛楽園の運営実態」が、最後の研究年次に残された。 この間の文献・資料調査の実状からすると、課題Ⅲ「愛楽園の運営実態」に関わる愛楽園側の予算配分等の資料の発掘が必要になるが、かなり難しい作業となることが予測される。もし、これらの発掘ができなければ、その場合には、分析対象を園誌「済井出」に絞った方法論を採用することになろう。 これらの検討を踏まえ、開園後の「國頭・愛楽園」での生活実態と、1931年の「癩予防法」、および同法との関連で沖繩縣が発令した「沖繩縣癩予防法施行細則」および「沖繩縣癩予防法施行手続」の関連を追いつつ、それらの成立の背景を読み込み、これらの作業を通して、当時の沖縄社会と愛楽園、そしてハンセン病を巡る内務省と沖繩縣との関係を追っていくことにより、本研究から示される一定の結論を、確保したい。
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Causes of Carryover |
「研究実績の報告」で記した研究計画の変更により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品費(図書)に使用し、研究を推進させる。
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