2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380717
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
長瀬 修 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (60345139)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 障害学 / 人権 / 国際連合 / 差別 / 障害者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終成果物である『障害者権利条約の実施』(長瀬修・川島聡編、信山社)の刊行に向けての取り組みを着実に進めた。2020年前後に想定される、障害者の権利条約の日本の初回審査に向けて、多くの障害者を含む各分野の専門家25名によるアカデミックなパラレルレポートという重要な社会的位置づけも兼ねている。構成は、総論(国内実施と国際実施)、各論(課題別、主体別、国別)からなる。 中国における障害者の権利に関する研究会を2017年2月25日に立命館大学(生存学研究センターと共催)、同3月11日に東京大学(「社会的障害の経済理論」松井彰彦研究代表者と共催)においてそれぞれ開催した。講師には、中国の市民社会レベルにおいて本条約の積極的な実施と研究に取り組んでいる張万洪(武漢大学教授 ・同大学公益発展法律センター・センター長)氏を迎えた。中国における本条約の実施は、本研究においても重要な研究テーマであり、前述の成果物でも各論の一つとして取り上げている。 もう一つの成果物である知的障害者向けの分かりやすい条約は、2016年7月26日に起きた神奈川県立津久井やまゆり園での衝撃的な障害者殺傷事件を受けて、内容と構成を再検討した。知的障害者19名が殺害されたことによって、生命に関する第10条を中心に見直しを余儀なくされたからである。なお、分かりやすい表現は、障害者権利委員会に初の知的障害者委員が誕生したことによって一層注目されている。 さらに、障害者権利条約と並んで障害者の権利保障にとって重要な役割を果たす、持続可能な開発目標(SDGs)を含む2030開発アジェンダに関しても、ハイレベル政治フォーラム(2016年7月・国連本部)に出席し、障害者の権利実現のための全体像把握に努めた。SDGsは障害者権利委員会の総括所見においても多く言及され、障害者権利条約の研究のためにもその把握は不可欠である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年7月26日に神奈川県立津久井やまゆり園において発生した障害者殺傷事件を受けて、取り組みを進めてきた知的障害者向けの分りやすい障害者権利条約作成は見直しを迫られた。19名の知的障害者の殺害、そして障害者、とりわけ知的障害者の存在を否定する容疑者の言動によって、研究パートナーである神奈川県内在住の知的障害者は大きな衝撃を受けた。研究の方向性は、この事件を受けて、生命の権利や地域生活をいっそう重視する方向での再検討を迫られた。そのため、最終成果物である分かりやすい条約の完成は最終年度に持ち越された状態である。 もう一つの最終成果物である条約の実施状況に関する研究のとりまとめは順調に進んでいる。国際法の専門家である岡山理科大学総合情報学部の川島聡準教授と共に編著者として最終年度に刊行予定である。2016年6月の第1回国家報告提出を受けて2020年前後に想定されている日本の初回審査に向けて、25名の各分野の専門家によるアカデミックなパラレルレポートという役割を果たすことで、社会的な貢献、還元ともなることを目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度であり、これまでの研究成果の取りまとめに注力する。障害者権利条約が2006年12月に採択されてからすでに10年以上が経過し、障害者権利委員会が締約国への審査過程を2010年にチュニジアを皮切りに開始して7年目である。昨年の締約国会議で行われた障害者権利委員会委員選挙では、日本から初めての委員として静岡県立大学の石川准教授が選出されたほか、知的障害者として初めての委員(ニュージーランド)や初めての手話を話すろう者(ロシア)が加わり多様性は増したが、選出された委員9名全員が男性というジェンダーバランスの極度の悪化が見られた。また、昨年は一般的意見の第3号(女児・女性障害者)と第4号(インクルーシブ教育)の採択があった。こうした最新動向を的確に把握、分析して最終成果に結びつける。 知的障害者である委員の選出(『世界を変える知的障害者:ロバート・マーティンの軌跡』ジョン・マクレー 著、長瀬修監訳、古畑正孝訳、2016年を参照)によって知的障害者向けの情報提供の確保は障害者権利委員会にとって条約の国際モニタリングの課題となった。締約国の審査においても、知的障害者にとって分かりやすい情報提供が重視されることは必定であり、障害者権利条約に関する分かりやすい情報提供の重要性は確実に増している。こうした展開を踏まえ、本研究の最終成果物の一つである知的障害者向けの分りやすい障害者権利条約を作成する。
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Causes of Carryover |
2016年7月26日に起きた津久井やまゆり園での障害者殺傷事件を受けて、作成を進めてきていた知的障害者向けの分りやすい障害者権利条約の内容の見直しを迫られたためである。殺害を受けて、生命に関する第10条を強調する必要が生じた。また、被害者が入所施設の入所者であったことと、入所施設の建て替えという神奈川県の方針を受けて、地域生活に関する第19条をいっそう重視して検討する必要が生じた。そのために、研究の方針を見直しを迫られ、予定通りの執行が進められなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究最終年度であり、相模原障害者殺傷事件関係の文献や、障害者の生命や地域生活に関する文献等に使用する予定である。
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Research Products
(15 results)