2015 Fiscal Year Research-status Report
女性労働と経営の歴史社会学的研究ー「ごりょんさん」の日記分析を中心に
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25380725
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
荒木 康代 関西学院大学, 社会(科)学研究科, 研究科研究員 (10580243)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 商家 / 商家女性 / 商家経営 / 近代的経営 / 女主人 / 商店 / 自営 / 近江商人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、戦前の商家経営、および商家から近代的経営への変遷を通じて、近代的経営について再考するとともに、経営の変化の中で女性の在り方がどのように変化していったか、ということについて考察することを目的としている。具体的には、戦前の家制度下で女性の法的地位が圧倒的に低かったにも関わらず、商家経営においては女性が大きな役割を持ち、発言権も強かったのはなぜなのか、という問いをたて、商家の女性を対象に研究調査を行ってきた。このことは、「女性の活躍」が提唱されながらも、現状は女性の活躍からはほど遠く、経営者や上級管理職、さらには産業以外の分野でも女性リーダーが一向に増えず、男女平等が進んでいない国といった評価を世界から受けている日本の現状について考え直すヒントにもなるのではないかと考える。 具体的には、以下の2つのテーマのもとで研究を行っている。まず第一に、昭和初期の商家の妻の日記を翻刻することによって、商家の妻の役割を明らかにした。具体的には昭和2年と6年の日記および関連資料の翻刻を行っている。昭和2年の日記の翻刻はすでに終了し現在は昭和6年の翻刻、さらに関連文書の翻刻を進めているところである。このことによって、商家の妻の役割が日常生活から具体的に明らかになったと考える。 第二に、滋賀県近江地方で商家の妻を育成教育するために女学校(淡海女子実務学校)を設立した塚本さとについての文献調査研究を行い、あわせて近江商人としての塚本家についても調査した。このことによって、さとがなぜ女学校を設立しようとしたのか、またなぜそれが可能だったのかということについて、具体的な資料から克明に知ることができた。 さらに、上記の研究をより広い見地から相対的にとらえるために、「女性の日記から学ぶ会」への出席を通じて、様々な女性の日記についても研究を行い、比較研究、考察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一に、商家の妻である杉村久子日記については昭和2年の翻刻を終了し、現在最終の編集作業に入っており、予定通りに進んでいる。あわせて昭和6年の日記の翻刻、杉村家および久子についての解説についても順調に作業を進めている。さらに、当初予定に入っていなかった杉村商店の番頭の日記についても現在翻刻を進めており、これについても最終報告書にもりこみたいと考えている。この事によって、商家の妻久子の立場のみならず、番頭の立場からも商家を見る事ができることとなり、商家における主人と番頭・店員、さらに商家の妻といった人間関係について複眼的に観察できることとなった。そのため、戦前の商家の日常生活や女性の役割がいっそう具体的に明らかになると考える。 第二に、女学校を設立した塚本さとについては、さとおよび塚本家についての資料分析を進めることによって、さとが学校を設立した経緯やそこにおける塚本家の役割や塚本家を通じた人間関係、近江商人のアイデンティティーという背景が明らかになった。この成果については、2015年9月20日に第88回日本社会学会大会で発表し、大きな反響を得た。その後塚本家についてはさらに追加調査を行った。塚本家は現在も塚本コーポレーション株式会社として存続しており、さとの生家塚本家は聚心庵として保存されている。そこで同庵を訪問し、聚心庵館長から塚本家について新たな追加情報および資料を得ることができた。このことによって、なぜさとが女学校を作ったのか、またなぜそれが可能だったのかということについて、具体的な確証が得られたのである。 さらに、「女性の日記から学ぶ会」への参加を通じて、農家女性、教師、主婦、女学生等様々な女性の日記に触れ、同研究についても知ることができた。同時代女性の共通性と立場の違いによる異質性を比較考察することによって、商家女性の役割について相対的に考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は最終年度となるため、追加調査とともに、これまでの成果を報告書及び論文としてまとめていきたいと考えている。まず、第一に、杉村久子日記(昭和2年分)については今秋までには編集作業を終え、印刷する予定である。また昭和6年の日記および杉村商店の番頭の日記については、今後できるだけ早く翻刻をすませ、最終報告書として提出予定であり、その際には、杉村久子についての解説とともに、同日記から得られた知見についても報告したいと考えている。 第二に、女学校を設立した塚本さとについては、第88回日本社会学会大会において発表した内容及び資料をさらに分析、またその後の追加資料も踏まえて、報告書としてまとめると同時に論文としてもまとめたいと考えている。また、さらに調査研究を進めることによって、将来的には出版も考えているところである。 女性の日記から学ぶ会を通じての、商家以外の女性の日記研究については、商家女性を相対的に見るという点で、間接的に研究に貢献してきたわけであるが、今後可能であれば具体的な比較研究も視野に入れたいと考えているところである。
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Causes of Carryover |
当初、2015年度最終月(2016年3月)に報告書を印刷する予定であったが、所属研究機関の移動等により多忙となったため、印刷を2016年度にすることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度できるだけ早い時期に報告書を作成するため、その報告書印刷に使用予定である。
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