2013 Fiscal Year Research-status Report
フィンランドの高齢者福祉サービスにおける市民参加―普遍主義からの離脱か地方分権か
Project/Area Number |
25380727
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
田中 里美 都留文科大学, 文学部, 教授 (00300129)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | フィンランド / 自治体合併 / 住民参加 / 近隣民主主義 / 地区委員会 / 社会福祉サービス |
Research Abstract |
本研究は、人口高齢化と財源不足に直面し、自治体合併を進めてきたフィンランドにおける福祉国家としてのトレンドに注目するものである。 フィンランドにおいて自治体は、教育、社会福祉等の基礎的サービスを提供する義務を負う。合併により、複数の自治体の議会は1つにまとめられ、各種サービスも中心部に集約された。これによって新自治体の周辺部の住民には、サービスへのアクセスが難しくなる、決定の場が遠のくという問題が生じる。 本年度は、これらの課題の克服に向けた試みとして、ロヴァニエミ市の地区委員会の動向に注目し、インターネットおよび現地での資料収集、関係者からの聞き取りにより以下を明らかにした。村を最小単位とし、その代表により構成される地区委員会は、地区の開発計画を立案、実施し、また、市の一委員会として、教育、社会福祉サービス他に関する予算を配分され、地区の住民に対するサービスの手配を行っている。この委員会はさらに、過疎化が進む地域でこれ以上の人口の減少が起こらないよう、住民に仕事の機会を与え、また低所得者に、市のサービスではカバーされないものの在宅生活に必要なサービスを利用しやすくするため、地区内の自営業者のサービスを利用する際に補助をつける在宅生活支援クーポンのしくみを考案、実施している。 この研究成果を、「合併後自治体の住民参加とサービス保障~フィンランド、ロヴァニエミ市地区委員会」として、北ヨーロッパ学会『北ヨーロッパ研究』10巻に投稿した(受理、校正中、頁未確定にて、本報告書後段「13.研究発表、雑誌論文欄」に記述せず)。 フィンランドとほぼ同時期に同様の理由から自治体合併が進行した日本でも現在、合併後自治体の周辺部において、行政サービスの減少、自治体運営への住民の参加の回路の減退が問題とされている。ロヴァニエミ市の地区委員会の取り組みは、日本にとっても有益な参考事例となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、戦後ながらく、居所によらない平等なサービスへのアクセスの保障を掲げてきたフィンランドで、現在、基礎自治体ごと、さらには同一自治体内部で、サービスの提供、手配の方法が異なっていることについて、北欧型福祉国家のアイデンティティに照らして同定することを最終的に目指している。 平成25年度は、同一の自治体内で、農村部と都市部において、サービスの手配について異なる2つのしくみがあることを、ロヴァニエミ市を事例として明らかにし、その研究成果を投稿することが出来たため。
|
Strategy for Future Research Activity |
自治体合併の進むフィンランドにおいて、ロヴァニエミ市の地区委員会は、周辺部農村地域における住民の地域運営への参画の回路として、また、地域の事情に応じたサービス開発および実施を行う単位として、注目を集めている。 ロヴァニエミ市は、農村部を6地区に分け、20年の実績を持つウラケミヨキ地区以外の5つの地区でも、2013年から地区委員会を設置した。2014年度は、この5つの地区で、地区委員会の導入をめぐる状況について関係者に聞き取り調査を行い、地区委員会導入の条件と課題を明らかにする。
|