2013 Fiscal Year Research-status Report
感化院における指導困難な障害児等への特別な処遇と分離処遇の展開
Project/Area Number |
25380738
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 感化教育 / 教護教育 / 児童鑑別 / 精神医学 / 土山学園 / 早崎春香 / 池田千年 |
Research Abstract |
本研究の全体像は、戦前の感化教育における障害児問題の顕在化と展開に着目し、感化法の対象規定と実際の運用(入所児童の実態)との整合性・不整合性という視点から、感化院入所の経緯や入所後の処遇および児童鑑別による入所不許可(分離処遇)の実態について明らかにすることである。 25年度は、4年にわたる研究期間の初年度に該当するため、研究をすすめる上での基礎作業として、(1)資料発掘・収集・整理・目録作成、(2)分析の枠組みの検討を行った。 (1)については、不良少年調査記録や感化院入所児童調査記録が保管されている国立国会図書館、矯正図書館(東京都)、国立武蔵野学院(埼玉県)等、および大阪府立修徳学院、兵庫県立明石学園、京都淇陽学校、鹿児島県立若駒学園等における所蔵資料の閲覧・整理・目録作成等に取り組んだ。加えて、これまで未見であった北海道立図書館、札幌中央図書館、青森県立図書館、高知県立図書館の資料調査をおこなった。そして、それらのうち、感化院入所児童の入所経緯・理由・入所不可の理由を示す資料として、兵庫県立土山学園(現在は兵庫県立明石学園)開設初期の入所児童規定(土山学園規則)を取り上げ、感化院入所児童中の教育困難な者に対する特別な処遇および児童鑑別による入所不可(分離処遇)の論理に関する分析をすすめた。(2)の分析の枠組みについては、土山学園初代園長の早崎春香、同学園園医(精神科医)で第二代園長の池田千年の保護教育論および児童鑑別に関する主張をもとに分析をすすめた。 これらの成果の一部について、日本特殊教育学会第51回大会にて「感化院の入所規定と入所児童の実態に関する研究」をテーマとして研究発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の研究状況について、(2)「おおむね順調に進展している」と自己評価する理由は以下の3点である。 第1に、(1)資料発掘・収集・整理・目録作成については、北海道立図書館、札幌中央図書館、青森県立図書館、高知県立図書館等これまで申請者が未見であった施設も含めた新たな資料発掘・資料調査にも取り組んだためである。第2に、それらのうち、感化院入所児童の入所経緯・理由・入所不可の理由を示す資料として、兵庫県立土山学園(現在の兵庫県立明石学園)開設初期の入所児童規定(土山学園規則)および早崎園長名による兵庫県知事への要望書を取り上げ、感化院入所児童中の教育困難な者に対する特別な処遇および児童鑑別による入所不可(分離処遇)の論理に関する分析をすすめ、これらの研究成果の一部を第51回日本特殊教育学会において個人研究発表を行ったためである。第3に、分析の枠組みについては、第2の点に関連させて、早崎春香(兵庫県立土山学園初代園長)、同学園園医で第二代園長の池田千年の保護教育論および児童鑑別論の検討を行い、①精神医学的な観点からの特別な処遇を必要とする者の排除(入所不可の判定)と、②院内特別学級開設のような実際に在院する児童への特別な処遇の展開の構造の分析を試みたためである。 加えて、上記のうち、土山学園設立当初の入所児童規定(「土山学園規則」)および兵庫県知事への要望書は、管見の限りこれまで公表されていない新たな資料の発掘であり、25年度の研究成果であった。一方、第3の分析の枠組みについては、早崎・池田の他に児童鑑別の必要性を主張した他の論者を加えて「特別な処遇の保障」と「鑑別による不可(分離処遇)」との構造分析を行う余地があると考える。 以上を総合的に判断し、25年度の研究状況は(2)「おおむね順調である」と自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
26年度からは、以下の3点の研究に取り組む。 第1に、25年度に引き続き、未見の図書館や児童自立支援施設(旧感化院)所蔵調査等に加えて、感化院入所経緯・理由・居住地域や家庭環境・就学状況・心身の状態等に関する資料として、(1)三宅ら精神医学者による感化院入所児童調査(三宅紘一・池田高徳による関東地方の幼年監・感化院入所児童調査、三宅紘一・杉田直樹・熊谷直三郎による全国感化院入所児童調査(内務省委託)等、(2)各道府県児童相談所による不良少年調査に関する資料等を収集し、分析をすすめる。加えて、感化院入所児童のうち、「指導や処遇困難」として各道府県感化院から国立武蔵野学院へ措置変更された、障害児等の指導困難児の実態に関する分析に取り組む。 第2に、分析の枠組みの検討として、(1)引き続き早崎春香・池田千年の他、杉田直樹(精神科医で少年教護院入所不可とされた障害児を受け入れた八事少年寮設立者)や三宅紘一等医師による児童保護論・児童鑑別論の検討、(2)入所児童の処遇や児童鑑別をめぐる感化院長会議での議論の分析、(3)感化院入所児童(不良少年、不良行為を為す虞のある少年、浮浪少年等)が生まれた社会的背景の分析をすすめる。(3)の資料としては、『京都市社会調査報告』などの社会調査報告を主として用いる。①感化院から武蔵野学院や少年保護団体などの院外施設へ措置変更された例については、地方感化院入所児童の入所経緯から看取される家庭的・社会的背景、②入所後、少年保護団体など他の施設へ措置変更した理由と当該児童の実態を明らかにし、これまでに収集した資料を用い、土山学園入所児童との比較を行う。 また、25年度に日本特殊教育学会で行った研究発表の内容および上記の研究成果をまとめ、論文を執筆し研究成果の公表を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末において、研究上必要となる近年刊行された各種資料の復刻版図書や消耗品を購入した際、それらの一部に割引があった。そのため、交付金額の1%未満にあたる1万円強の次年度使用額が生じた。 資料整理に必要な封筒やファイルなどの消耗品の購入にあてる。
|