2014 Fiscal Year Research-status Report
地域精神保健福祉におけるソーシャルワークの共通基盤に基づく実践モデルの開発
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25380794
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Research Institution | Doho University |
Principal Investigator |
平澤 恵美 同朋大学, 社会福祉学部, 講師 (70611804)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ソーシャルワーク / 精神保健福祉 / 地域生活支援 / 実践モデル / クラブハウスモデル / 国際比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に取り組むことが困難であったアメリカの精神障がい者を対象としたソーシャルワーク実践枠組みの構築に関する調査として、包括型地域生活支援モデルで知られるマディソン市をフィールドとしたヒアリング調査をおこなった。本調査では、その中でも特にクラブハウスに着目し、マディソンモデルの中でクラブハウスが果たす役割、そしてクラブハウスという独自のモデルが利用者にとってどのような意義を持っているのかに焦点をあてた。この訪問調査を通して明らかになったことは、個人単位でミクロの支援を展開する訪問型の地域生活支援だけではなく、クラブハウスという場を活用しながら、相互支援を展開するメゾレベルの支援形態の重要性も実践モデルの中で認識されており、こうしたミクロとメゾの両方を持ち合わせた支援の要素が北米モデルの中でも有効だと考えられている点である。 また、これまでの調査を通して、地域精神保健福祉のソーシャルワークに関する実践枠組みの基準となる支援体制構築の必要性を認識したことから、精神科病院に頼らず精神障がいのある人々を地域で支援している、イタリアトリエステ市の地域生活支援モデルの調査分析をおこなった。その結果、トリエステモデルが精神障がい者の人権尊重というソーシャルワークにおける基本的価値を重視し、個人が地域で生活するために必要とされる個々のニーズを主体とした福祉サービスを柔軟に提供するシステムを構築していることが明らかになった。 これらの結果から、これまでに実施した北欧と欧米の調査結果を、基準となるトリエステのモデルと比較検討することにより、地域ごとの文化的なソーシャルワーク実践要素の背景には、基礎的なソーシャルワーク実践としての要素が大きな役割を果たしており、基礎的な要素が文化的な要素に与える影響について、それぞれの実践要素を見直し、再検討する必要があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における達成点として、地域精神保健福祉における日本・北米・北欧ソーシャルワーク実践モデルを検討するために必要な現地調査をそれぞれの国で1度はおこなうことができている。特に北米調査では、先駆的な実践として日本でも注目されているマディソンモデルの調査をおこなうだけでなく、本研究における共通モデルとして焦点をあてている、クラブハウスモデルをフィールドとしてヒアリング調査を実施することができた。その概要については、研究論文として発表をおこなった。 北欧調査では、北米と同様にクラブハウスでの訪問調査をおこなったが、地域全体を捉える生活支援モデルのヒアリングができておらず、残された課題として、一つの地域でどのようなモデルを用いて精神障がいのある人々の支援が展開されているのかを検討していきたいと考えている。この調査結果を北欧のソーシャルワーク実践モデルの一つとして分析の対象としていきたい。 日本調査では、これまでにおこなった現場調査により得ることができた調査結果に加え、国内のクラブハウス会議・アジアクラブハウス会議等への参加を通して、生活の場における生活支援だけでなく、非日常ともいえる会議を通した当事者の主体的な参加の意義・エンパワメントとの関係性などを考察することができた。 さらに、これらのソーシャルワーク実践モデルを検討するうえで基盤となる地域精神保健福祉のソーシャルワーク実践について、World Health Organization(WHO)の研究機関となっているトリエステの実践を分析することにより、地域で精神障がいのある人々を支援するために必要なソーシャルワークの要素にも焦点をあてながら整理することが可能となった。 以上を踏まえ、2年間の研究計画の中で計画年度が前後してしまった部分や新たに付け加えられた視点もあるが、最終年度のまとめに向けて順調に取り組むことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまでの研究を通して再検討が必要だと明らかになった、北欧モデルのソーシャルワーク実践に関する調査を前期中におこない、最終年としてのまとめに取り掛かる。既にスウェーデンとデンマークの精神保健福祉現場での訪問調整も完了しており、以前の調査でヒアリングをおこなったクラブハウスでの再調査も検討している。限られた時間内での訪問調査となるため、クラブハウスではメンバーとスタッフから参与的なヒアリング調査をおこない、地域では精神障がい者の包括的な支援体制を調査し、その内容を分析することにより、北欧モデルにおける実践要素を検討する。 日本での継続調査として、精神障がいのある人々をクラブハウス方式で支援している、それぞれのクラブハウスへの再訪問をおこなう。今年度は、クラブハウスのみならず、先駆的な実践を展開している他のプログラムにも着目し、複数の地域実践現場へ訪問する計画をしている。地域の現場で北米・北欧モデルの実践に関する報告をおこないながら、スタッフや利用者から日頃の支援や生活に関するヒアリングをおこない、日本の特徴的なソーシャルワーク実践の形態や価値としてのソーシャルワークの要素にも着目しながら分析をおこなう。 最終的なまとめとして、これまでの調査結果からそれぞれの地域における地域精神保健福祉のソーシャルワーク実践のモデル化に着手する。そして、これらの実践モデルの共通項としてみられるユニバーサルな共通基盤と相違点としての独特な要素の両方を導き出し、これらの実践モデルを通して日本型のソーシャルワークアプローチを明らかにしていく。
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Research Products
(3 results)