2013 Fiscal Year Research-status Report
ひきこもる若者が実践主体となる支援の哲学・方法・制度の研究
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25380803
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山本 耕平 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (40368171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 勉 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (20162969)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ひきこもり / アセスメント / 実践哲学 / 実践方法 / 対象から主体 / ピアスタッフ / 韓国 |
Research Abstract |
今年度は、今次の研究目的に定めている「ピアが果たす役割と働き方を明確化」を実践研究を通して明らかにしてきた。その研究方法としては、ピアスタッフを対象とした半構造化インタビューを実施し、彼らがその育ちのなかで有してきた諸困難と、その困難と向き合う力の獲得を可能としてきた実践体の実践哲学や方法との関わりでピアの育ちを分析した。研究目的では、「ピアスタッフは当事者と同様のひきこもり体験をもつ人物である。彼らが参加する支援の場の哲学と支援の方法の検討は、支援の主体者であり、協同連携者としての資質の向上を図るためにも不可欠となる」と述べているが、今年度の研究は、その目的を追求するものとして行われた。 そのなかで、ひきこもり当事者が、ピアスタッフとして育っている実践体でのピアスタッフとその他の支援者の関係性が協同的関係性にあると考え、その関係性を築く支援者集団のあり方や支援哲学を、第9回社会的ひきこもり支援者実践交流会(要旨集P86~90)で指摘した。それは①若者と家族がひきこもりと向きあい社会に参加する力を獲得する各期において、若者や家族とともにその状況を評価し、引き続く支援を計画化できる力②若者や家族の主体的な課題解決を保障する力。そこでは、主体的な課題解決が必要であり、暗黙の強制があってはならない。③実践を通して自らの発達に挑戦するなかでこそ、専門性を育てることが可能となる支援者は、同職者と仲間として相互に育ちあうことを常にめざし相互に批判しあう力が必要である④支援者が若者やピアである時、その支援者自身が有している何らかの課題が、実践のなかで明らかになるが、その課題を、相互に育ちあう職員集団のなかで克服可能する力。⑤若者の人権が守られていない状況や若者の排除がすすんでいる状況を発信し、社会システムに働きかけ、有効な若者支援策を導き出す力の五点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究には三つの目的がある。現在、第2の目的である「ひきこもり支援におけるひきこもり経験者(ピア)が果たす役割を明確にする作業」と第3の目的である「支援の方法や哲学の検討」においては、着実に進んでいる。 第2の目的においては、現在論文執筆中であるが、ピアスタッフが果たす役割に対する半構造化インタビューを中心とした調査を行ってきた。ピアスタッフの専門性研究はピアにのみ理解できるという当事者原理主義的発想を育てる触媒として必要なものではない。彼らのピア性は、彼らが彼らの人生を大切にできうる条件を作りうる協同的実践の課題提起の為に必要不可欠であり、彼らの専門性は、彼らを支援者として“依存”することを望む若者たちとともに、彼らが歩むべき人生を探る力として必要なのである。 第3の目的に関しては、NPO法人文化学習協同ネットワーク、社会福祉法人一麦会、NPO法人エルシティオと韓国のハジャセンターやユジャサロンを取り上げ分析を進めている。なかでも、NPO法人文化学習協同ネットワークの哲学と社会福祉法人一麦会の哲学から“協同性”と“対象から主体へ”がキーワードにあると考え、分析を進めるなかで、実践哲学として次の四点を柱にさらに深く分析することが可能ではないかとの段階に至っている。それは、①若者を、克服しがたい個々の問題をもった人(群)であり、可能性を見出すことが困難であるといった考えではなく、彼らが無限の可能性をもった人(群)であると捉える実践観②対人関係の訓練が必要な人や、就労訓練が必要な人として捉えるのではなく、若者を全体として捉え、生きざまそのものを捉える実践哲学③支援者ー被支援者の関係ではなく、共に歴史を切り拓く仲間として共に生きる実践哲学④他のマイノリティと共に、生きやすい地域づくりを進める主体となる実践創造の四つである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、本研究の第一の目的である「ひきこもり共通アセスメントの作成」の基礎資料収集として滋賀県愛荘町での調査を実施する。愛荘町をこの調査対象として選んだ根拠は、滋賀県愛荘町が、幼少期からの発達相談体制を整備しつつある自治体であることと、人口規模から、かつてひきこもっていた者の生活史を比較的把握しやすい自治体であり、アセスメント研究に必要な普遍化する基礎データ収集を行うためには適切な自治体であると考える為である。 この調査の方法は、①現在ひきこもっている者、あるいは、ひきこもり親和状態にある者を40代後半、40代前半、30代後半、30代前半、20代後半、20代前半、10代から抽出する②その上で、現在ひきこもっていない各年齢層のcontrol群を抽出する。③両対象群の発達史をretorospectiveに分析するという方法をとる。 この調査研究の意義は、両対象群の育ちと支援の実際を比較検討することで基礎的疾患や障害、さらに家族の課題、学校での課題等とひきこもりの関連をを明らかにすることができことと、引き続く子ども・若者の支援や行政の課題を具体的に検討できるにある。また、個々の事例に対するretrospective studyは、資料や記録が欠如する時期(時点)を明確にするものであり、個々の分野の実践課題と連携の課題が明確になる。第三が、現在の発達保障体制となる以前において関わり、今、ひきこもっている事例を振り返ることにより、現在の発達保障体制を確立してきた所以について整理することができ、他の自治体が発達保障体制を考える根拠となる。 アセスメントは、生活の事実との関わりで行う必要があり、本人の語りから対象群の生活史(発達史)のなかにある“生きづらさ”の背景をさぐることが必要である。また、このアセスメントに文化的要素を組み入れる必要があり、韓国でひきこもる若者との比較研究も進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2014年度の研究において、インタビュー謝金が必要となる為、計画的な支出が必要であった為。(2013年度に実施したインタビュー謝金は、他研究費から出費とした。) 2014年度には、「ひきこもり共通アセスメントの作成」の基礎資料収集として滋賀県愛荘町での調査を実施する。ここで利用する研究費は、インタビュー謝金とテープ起こし費用(謝金)、アルバイト雇用の為の謝金、出張費等である。 アセスメントは、生活の事実との関わりで行う必要があり、本人の語りから対象群の生活史(発達史)のなかにある“生きづらさ”の背景をさぐることが必要である。また、このアセスメントに文化的要素を組み入れる必要がある。この為、韓国でひきこもる若者との比較研究も進める。ここで必要とするのは、通訳謝金、インタビュー謝金、テープ起こし費用、出張旅費である。
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