2014 Fiscal Year Research-status Report
居住支援型社会的企業による包摂型コミュニティ実践モデルの開発
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25380812
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Research Institution | Osaka University of Human Sciences |
Principal Investigator |
石川 久仁子 大阪人間科学大学, 人間科学部, 准教授 (40411730)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
全 泓奎 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (00434613)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 居住支援 / 社会的企業 / コミュニティ実践 / 居住福祉 / 地域福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度はより広範な地域における居住支援の現場に対する調査を実施した。居住困窮に陥る層は多種多様であるが、居住困窮者に対する居住支援実践の多くはまずホームレス支援分野から生まれている。昨年に引き続き、全国の特徴的なホームレス支援団体5カ所に対して視察およびホームレス支援に関する中間支援団体に関して情報収集を行った。そして、ホームレス支援分野のみならず軽度の知的障害や精神障害ゆえに居住困窮に陥った障害者に対して居住支援をおこなう団体、そしてひきこもりや社会的養護施設退所の若者に対して居住支援をおこなう団体などに対しても調査をおこなった。2013年度にヒアリングを行った団体もあわせて比較すると、様々な点で異なりが見られた。例えば5都県で事業を展開、1000人以上の入居者を抱える団体もあれば、あくまで1つのエリア、最小では中学校区エリアなどの地域にこだわった居住支援をおこなう団体もあった。より小さなエリアにおける支援にこだわればこだわるほど地域の諸団体とのつながりも強く、細やかな居住支援ニーズをキャッチ、予防的活動までおこなっていた。しかし、事業収入は不安定になる傾向が見受けられた。 事例調査に加え、これらの成果を広げ、議論を深めるため福祉現場の実践者や研究者たちによる研究会を2回実施した。本年度に関しては低所得高齢者および生活課題をもった若者を支援対象として実施した。低所得高齢者への居住支援をテーマとした研究会では①居住困窮の高齢者の特徴、②居住困窮高齢者の居住支援はいかに成り立つのかについて議論した。若者への居住支援をテーマとした研究会では、①若者支援がうまれた背景、②若者にとって住まい・自立とは何か、③若者への居住支援実践をいかに構築しうるのかについて議論をおこなった。海外における居住実践の把握としては9月に韓国、10月に日中韓居住問題国際会議において情報収集をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず居住支援、すなわち「住宅の確保・維持」「生活支援」「コミュニティ支援」はどのようになされるのか、その中身について現時点の知見をまとめてみたい。対象者や町の状況によって異なるが、どのような場合であれ相談支援が軸となることが明らかになった。支援にいたる入口のあり方や支援団体のタイプ(事業性の強弱)、位置する地域の社会資源(連携できる団体・関係者)の質量によって内容が変わっていること、援助関係が構築しにくい、拒否傾向のある対象者の場合入口の作業に時に年単位の時間がかかることがわかった。 つぎに居住支援型社会的企業の社会性についてであるが、居住困窮者への住まい提供を基盤にしつつ生活全般の形成にまで総合的な支援を展開すること、ただし、囲い込まないこと、複数のサービス提供主体の利用が可能であることが求められていた。 3つめに事業性についてであるが、ヒアリングをおこなったいずれの団体も事業・組織の維持に非常に課題があった。基本として使用可能な外部資源はできるだけ活用することを原則に、①できるだけ公的制度を活用する(グループホーム、自立援助ホーム、自立準備ホームなど)、②行政・助成団体からモデル事業として資金を獲得する、③収益性の高い他の事業を同時に展開するという3つの工夫が重なって見られた。 4つめに他組織との関係性だが、支援のプロセスごとに他団体とのネットワークが必要とされていた。入居にあたっては ①賃貸可能な物件を確保するためのネットワーク、②住宅保証人を確保するためのネットワーク、③居住困窮にある人をキャッチするためのネットワーク、④支援計画をたてるためのネットワークを形成していた。そして、入居後は⑤ケア・見守りのためのネットワークが必要とされていることを確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主たる研究方法は事例研究である。2014年度は団体数を増やしての事例研究に取り組んだ。居住支援実践が本質的にもつネットワーク性質を支援プロセスごとに分類し、検討する枠組みももつことができた。しかし、プロセスごとのステップやそれぞれの連携先、特に不動産業者・大家からみたときの居住支援実践の評価などのより細やかな分析はいまだ至っていない。そして実践団体が拠点を構える自治体の関係部署との関係、関連する住宅政策・福祉政策との居住支援実践の関連は未着手である。居住支援型社会的企業によるコミュニティ実践の実態を把握するための事例研究を継続し、団体へのヒアリングや自治体へのヒアリング、情報収集を継続しておこなっていく。 本研究はアクションリサーチとしての性質ももっている。居住困窮が広がり居住支援アプローチはこれからの課題にあるにもかかわらず、これまで広くとりあげられてこなかった。ヒアリングをおこなった団体間では分野・地域が異なればその存在そのものも互いに認知していない。多様な居住困窮がそれぞれの地域の中に潜在化してきた結果ともいえる。昨年度2回開催することができたが、居住支援に関わる実践者や研究者を招いての研究会を4回開催する。本研究の出発点でもある京都市において、居住支援ネットワークと居住支援型社会的企業の形成をめざしたワークショップを開催する。関係者間の情報交換であると同時にコミュニティ実践モデルの構築および検証の場となることが期待できる。さらに、国内調査と同時並行しおこなっている海外における居住支援型社会的企業の調査も続行、最終年である今年は海外関係者を招へいし国内研究会を開催したい。最終的にはこれらの研究成果をひろげるため、小冊子、報告集を作成する。
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Causes of Carryover |
研究会開催が1回分最終年度にずれこんでいることと、事例研究の記録の整理がずれこんでいることによる。また、国内および国外における視察に関する費用が複数回、当初予定していた費用に比較して少額で収まったこともある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ワークショップも含めた研究会の開催と事例研究の記録の整理にあてる。また新たな視察、事例研究において再視察、聞き取りの必要もでているため、これにあたっての視察・謝礼の費用にあてる。
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Research Products
(2 results)