2015 Fiscal Year Research-status Report
トラウマの筆記による心身の健康・高次認知機能増進に関する認知行動・脳科学的研究
Project/Area Number |
25380932
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
佐藤 健二 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (10318818)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 筆記開示 / トラウマ / 距離化 / 想定書簡法 / 心身健康 / 高次認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,想定書簡法の手続きを導入したトラウマの構造化筆記開示が心身の機能に及ぼす影響を検討することであった。現在,筆記開示の効果の要因として,トラウマを客観視すること(距離化)など,認知面へのアプローチが重要と考えられている。そして,想定書簡法の手続きを援用すると,トラウマを有する個人が,自身の考えや感情を他者に書簡を送るようにして書き,次に,他者の立場から返信する。こうした手続きは,一般に客観視を促すものとして知られており,その導入によって,より一層の距離化が生じると考えられる。 大学学部生を対象に出来事インパクト尺度(IES)日本語版を施行し,外傷後ストレス反応(PTSR)について中程度以上であり,1ヶ月フォローアップまで完遂した20名(構造化開示群6名,自由開示群7名,統制群7名)を対象に分析を行った。その結果,全群において,健康および高次認知機能(ワーキングメモリ)の指標における改善効果が認められたが,構造化筆記開示固有の効果は認められなかった。一方,内容分析の結果,構造化開示群や自由開示群においては,洞察語(「理解した」など)が多くなるほど,身体的健康の増大が認められた。また,因果関係語(「なぜなら」など)が多くなるほど,IESの下位尺度「回避」得点が低減することが示された。これらの結果から,先行研究同様に,認知語(洞察語,因果関係語)の増大が心身の健康の増進に関連があることが示唆された。距離化を含めた認知面へのアプローチの重要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体的には,おおむね計画通りに進んでいる。しかし,研究代表者は,臨床心理相談室長に就任したことで業務が多忙となった。また,データ収集・保管に用いていたパソコンが故障し,当初計画の遅延・見直しが生じた。そのため,必要な機器の選定と購入も遅れた。一方,研究自体は進み,「嫌な体験一般を受け容れる態度が増す程,トラウマ関連の刺激を避ける傾向が減る」という新たな仮説も示唆された。これらを総合すると,「やや遅れている」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究成果に基づき,嫌な体験一般を受け容れる態度を増進させる機序および技法の検討を行い,新たな研究仮説を検討する。また,嫌な体験を経験している個人の脳機能の状態について,生理指標を測定する機器を用いて測定し,遅延している研究計画を推進する。
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Causes of Carryover |
データ収集・保管に用いていたパソコンの故障に伴って,当初計画の遅延,見直しが生じ,次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
遅延していた研究の実施に必要な機器(パソコン等)の購入に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)