2014 Fiscal Year Research-status Report
裁判員裁判に寄与する情状鑑定の在り方と判決前調査制度の導入可能性に関する研究
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25380952
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Research Institution | Komazawa Women's University |
Principal Investigator |
須藤 明 駒沢女子大学, 人文学部, 教授 (20584238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 吉生 日本女子大学, 家政学部, 教授 (20315716)
村尾 泰弘 立正大学, 社会福祉学部, 教授 (30308126)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 准教授 (60586189)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 情状鑑定 / 判決前調査 / Mitigation Specialist / 量刑判断 / 犯情 / 国際情報交換(米国) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,通算で10回の研究会を実施し,刑事裁判で有効な情状鑑定の在り方を検討した。その研究会において,刑法学者や社会福祉学者を講師として招き,判決前調査について米国及び日本における論点を整理した。また,米国ワシントン州シアトル市を訪問して,Probation Officer,Mitigation Specialist,裁判官,弁護士などにインタビューし,刑事事件における判決前調査がどのように活用されているのか,その実情を調査した。併せて,問題解決型裁判所であるドラッグ・コートやメンタルヘルス・コートを訪問した。その他は,以下のとおりである。 1 情状鑑定の質的検討,判決前調査制度の導入に関する検討 情状鑑定は,一般情状だけでなく,狭義の犯情をより明らかにすることが重要であることが,弁護士との事例研究を通じて明らかになった。また,未成年者の刑事事件については,家庭裁判所の社会調査結果が十分活用されていない現状に鑑みると,情状鑑定をより積極的に活用していくことが必要であり,そのための方策について検討した。判決前調査制度を持たないわが国にとって,当面は情状鑑定の活性化及び充実が必要である。米国では,Probation Officerが行う判決前調査だけでなく,公設弁護人事務所で働くMitigation Specialistも必要に応じて判決前調査を行っている。わが国でも弁護人から依頼される情状鑑定(私的鑑定)もあるが,鑑定費用,面接室など鑑定を行うための環境その他で不十分な面が多く,この点をどのように解決すべきか大きな課題である。 2 学会活動 日本司法福祉学会,日本心理臨床学会で情状鑑定をテーマとしたシンポジウムを行い,刑事裁判に心理臨床家がかかわる意義や現状の課題について幅広い観点から討論した。その結果,刑事司法に馴染みのない心理臨床家に関心を持ってもらうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた研究は,「情状鑑定の質的分析」,「弁護士,元裁判官への調査」,「米国の司法事情調査」を柱として,わが国の現状に照らした情状鑑定の在り方について検討し,情状鑑定の準備から報告に至るまでのガイドラインの策定に着手することであった。 これらの研究のうち,ガイドラインに関しては未着手ではあるが,その他は予定通り進んでいる。米国での訪問調査によって,Probation OfficerやMitigation Specialistが行う判決前調査が果たしている役割や意義が明確になった。特に公設弁護事務所に所属するMitigation Specialistの活動理念やその方向性を把握できたことは大きい。その他,問題解決型裁判所の見学によって,それを支える治療的司法(Therapeutic Jurisprudence)の理論,そこにかかわるソーシャルワーカーなどの専門家の活動に接することができ,今後の刑事司法の在り方について有益な示唆を得られたと考えている。また,本年度,研究員が担当した情状鑑定は,裁判所からの正式鑑定が3件,弁護人からの私的鑑定が1件であり,これらの鑑定について,内容,公判でのプレゼンテーション等に関する質的検討も行った。その成果は鑑定のガイドラインに反映させたいと考えている。 また,関連学会で情状鑑定や判決前調査をテーマとしたシンポジウムを行い,本研究で得られた知見や問題意識を学会員に広く投げかけることができた。さらには,各研究員は,学会誌への寄稿や研究発表などで,これまでの成果を積極的に外部へ発信してきた。これらを通じ,刑法学者との学術的交流も活発となっている。 以上から,一部に多少の遅れが生じているものの,研究はほぼ順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,最終年度になるため,これまでの研究のまとめを視野に入れた取組みをしていく。 まず,情状鑑定のガイドライン作成に関しては,実際の鑑定事例を弁護士らとて具体的に検討する作業を引き続き行い,広義の情状だけでなく,犯情といった狭義の情状を明らかにするための鑑定の在り方を整理する。また,元裁判官や刑法学者へのインタビューも可能な範囲で実施し,多角的なな視点で情状鑑定を整理した上で,その成果を情状鑑定のガイドラインに盛り込んでいく。また,本研究を通じて,未成年者の刑事事件,特に少年法20条2項に該当する原則検察官送致事件で情状鑑定を実施する必要性が高いことが明らかになってきた。したがって,この点についても,鑑定事例の集積や諸外国との比較検討を行い,問題点を整理していきたい。 学会活動では,日本犯罪心理学会及び米国のNOFSW(National Organization of Forensic Social Work)で情状鑑定と判決前調査をテーマとした個人若しくはグループ研究発表を行う。特に,NOFSWでは,本年度に実施したシアトル市の司法事情調査結果を踏まえて情状鑑定の日米比較の研究発表を行う予定であり,米国の司法ソーシャルワーカーらとの交流もより深めていきたい。その他,日本家族療法学会では,「刑事裁判における情状鑑定の臨床的な意義」をテーマに,日本心理臨床学会では,「刑事司法にける心理臨床家の寄与」をテーマにそれぞれシンポジウムを行う。 さらには,平成28年2月に刑事法学者,弁護士,本研究員をシンポジストとした公開シンポジウムを予定している。そこでは,本研究で得られた成果を発表するとともに,情状鑑定の在り方や判決前調査制度を導入することの課題等について議論する。本シンポジウムを通じて学際的な議論を活性化させる契機にしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
裁判官へのインタビュー,関係機関訪問等が見込みよりも少なくなったこと,弁護士へのアンケート集計の費用が不要になったことが,主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は,弁護士会その他の協力を仰いで,公開シンポジウムを実施する予定であり,また,研究成果の書籍化も検討しているため,その費用に充当していきたいと考えている。
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Research Products
(19 results)