2014 Fiscal Year Research-status Report
実践的判断における認識の構成的機能からみたカント判断力理論の教育学的再検討
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25381020
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
山口 匡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20293730)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 判断力 / カント / 認識 / 実例 / 道徳教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は次の研究項目から構成されている。(1)カントの実践哲学を「実践的判断」と「認識」の相互連関の観点から分析する。(2)実践的な判断力概念を中心にすえてカント教育思想を再構成する。(3)道徳教育における「実例」の問題性を分析するための理論的枠組みを提示する。こうした研究計画をふまえて、二年目の平成26年度は、主に(2)と(3)に関連する課題に取り組んできた。 カントにおける「実例」概念は多義的だが、①判断力と「実例」、②道徳性と「実例」の二つのテーマに大別して分析を行った。①から導き出されるのは、〈判断力の働きそのものは規則に表すことができない〉というカントの思想であり、その結果、判断力の訓練・鋭敏化にとって、実例のもつ効果がきわめて限定的に受け止められていることが明らかになった。②で問題となるのは、実例の規則に対する依存性である。つまり、実例が例示する規則がすでに知られている場合にのみ、その実例が意味をなすという逆説的な関係性である。 この問題に関連して、近年のカント研究から有益な知見をえることができた。すなわち、何かある実例を学ぶということは、その本来の意味からいえば、何かある事例とそれに対応する規則の組み合わせを知るだけでなく、この両者を結びつけ、事例を規則の実例にさせる判断そのものを学ぶということを意味するという解釈である。本研究では前者を「包摂される実例(実例の包摂)」、後者を「包摂の実例」と区別し、道徳教育における両者の意義や機能についてさらに分析を進めている。 現時点では、ガイヤーのいう「カントの道徳教育における実例使用の分業化」論をふまえて道徳教育における「実例」の問題性を整理しつつ、(1)に関する研究成果(平成25年度)である「道徳的重要性の規則」(ハーマン)との整合的な解釈に一定の見通しを立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画として設定していたのは、(1)実践的な判断力概念を中心にすえてカント教育思想を再構成する、(2)道徳教育における「実例」の問題性を分析するための理論的枠組みを提示する、の二項目である。 (1)については、今年度もこれまでの研究を継続するかたちで文献・資料の収集とその分析に取り組んできた。とくにドイツでの調査研究・資料収集の実施によって予定通りの資料収集を行うことができた。カントの教育思想をどのようにとらえるかは、最終的には、〈判断力の働きそのものは規則に表すことができない〉という問題をどのように理解するかというテーマに収斂することが明らかになった。 (2)については、「判断力と実例」、「道徳性と実例」という二つの視点を軸に、道徳教育における「実例」の意義や機能について予備的な分析を行った。実例を「包摂される実例」と「包摂の実例」に区分し、「カントの道徳教育における実例使用の分業化」論(ガイヤー)をふまえて、道徳教育における「実例」の問題性に取り組んでいる。このテーマは、昨今の「道徳の教科化(特別の教科 道徳)」をめぐる検定教科書や評価に関する議論にも大きな示唆をもたらすことが予想される。 以上のような進捗状況により、おおむね順調に進展しているものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成27年度は、各研究項目をさらに深化させながら、全体のまとめに取り組む。とくに研究の柱となるのは、実践的判断・道徳的判断の条件としての認識的要素と「実例」との関連の解明である。平成25年度、平成26年度の研究成果をもとに、以下の課題に取り組み、研究報告を行っていく。 (1)カントの判断力理論について道徳教育の立場から再検討を行い、「実践的判断において認識がはたす構成的機能」を明確化する。とくに、「道徳的に重要な状況の認識」(ベンハビブ)や「道徳的重要性の規則」(ハーマン)が何に由来するのかの解明が課題となる。 (2)道徳教育における具体的な課題、とりわけ道徳教育における「教材」や「実例」をめぐる問題(その役割や条件)について理論的な枠組みを明確化する。そのさい、「実例の包摂」と「包摂の実例」という「実例」の二分法が重要な意義をもつことが、これまでの研究から明らかになっている。 (3)実践的な判断力を中心にすえたカント教育思想の再検討を通して、①カントの教育思想をめぐる難問、「自由と強制のアンチノミー」と「道徳教育の不可能性」をめぐる問題を、批判哲学の枠組みと整合的なかたちで解釈する方向性を提示する。②教育学の中心的概念としての判断力の重要性を、「実質的条件(教育的伝達の内容)」の観点から明確化する。 以上の項目を総合的にふまえ、「実践的判断における認識の構成的機能からみたカント判断力理論の教育学的再検討」からえられた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
購入予定の図書(和書、洋書)のなかで刊行が延期または中止となったものがあったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度助成金とあわせて、図書(教育学関連、哲学思想関連)、消耗品の購入、学会への参加費・旅費、および資料収集費用に使用する。
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