2014 Fiscal Year Research-status Report
1960から70年代における日本の教育実践に関する基礎的研究
Project/Area Number |
25381070
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小国 喜弘 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (60317617)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨士原 紀絵 お茶の水女子大学, その他部局等, 准教授 (10323130)
浅井 幸子 東京大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30361596)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 教育学 / 教育史 / 教育実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、小国喜弘は、1970年代の教育実践の動向について、文献蒐集と調査を主として行った。その過程において、特に統合教育の実践が、当時の学校教育に対する根底的なプロテストを含んでいることから、統合教育の主張とその実践の展開についての資料調査、聞き取りとを行うことになった。 1970年前後は、世界史的な転換点でもあるが、教育実践史に即していえば、二つの概念が提起されるようになった時期として注目すべきであることを理解することになった。第一に、杉本判決に象徴されるような、学習権思想の提起であり、第二に、「障害児」と「健常児」が共に学ぶことの意義を提起した、統合教育における「共生共育」の思想的展開であることが明らかになった。 浅井幸子は、1950年代から80年代にかけての保育実践の記録を検討した。「遊び」と「学び」の狭間に子どもの学習の可能性を読み取る点に保育者の独特の眼差しを抽出した上で、実践記録に語られる物語が、いかに生成・構築され、そして共有されることになったのかについて検討を行った。 冨士原紀絵は、1950年代から現在にいたるまでの日本の作文・綴方教育における指導法に関する知見を洗い直した。それの結果、作文を執筆する段階ではなく、書き終えたものをどのように指導に活かすかという点で、様々な立場があることが明らかになった。作文を書くという行為をあくまで個人の能力として、その形成として捉えるのか、書いた者を他者と共同で学び合う中でこそその能力が形成されると考えるのかで指導のプロセスが変わってくる。すなわち、作文という一つの契機ではあるが、表現力の形成を個と集団との関係で丁寧に捉え直す必要があることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度より、教育実践の1950年代から70年代の展開について、教育実践の政治性の問題を小国喜弘が、教育実践の物語性の問題を浅井幸子が、教育実践のはらむ共同性の問題を冨士原紀絵が担当することとし、個々のテーマに即して資料の収集、聞き取りをすすめることとなった。また適宜、協働での研究会を開催して、研究成果の交流につとめてきた。 それぞれにおいて作業状況の進捗にズレはみられるものの、総じて順調に推移している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度にあたり、研究のまとめを行う予定である。 教育実践の政治性の分析については、1970年前後における論理の転換について、権利思想とからめながら検討を行う。特に統合教育の主張と実践がどのように展開されたのかを具体的な団体に即して、聞き取り調査を踏まえながら検討を行う。 教育実践の物語性の分析については、教育科学研究会を中心にしながら1950年代から60年代の、実践記録から授業記録への転換を検討する。その際、これまで必ずしも焦点があてられてこなかった、保育の実践記録を視野に入れる。 教育実践の共同性の分析については、作文指導を軸として、「共同批正」という指導方法に焦点をあてた分析を行う。「共同批正」は、共同的な学習であると同時に、個人的な学習という両面を備えており、そのことにより、教育実践の共同性がどのように当該時期において変容することになったのかを明らかにする。 これら個別の取り組みを踏まえて、1950年代から70年代にかけての教育実践の変容を今日的な問題と結びつけながら歴史化する作業を協働的に行う。そのため、今年度後半については、これまで以上に、共同の研究会を開催する。
|
Causes of Carryover |
これまでの研究計画において、旅費として想定していたものが、実際には出張を必要とせずに資料収集できる状況にあったこと、これまで聞き取りを行っていたもののテープ起こしが遅れていることなどから、その支出予定分が次年度への繰り越しとなっている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度については、聞き取りによる謝金の支払い、さらに聞き取り分のテープ起こし謝金としての支出を予定しており、同時に、研究成果の公刊のために支出する予定である。
|
Research Products
(4 results)