2015 Fiscal Year Research-status Report
義務教育制度の再編政策に関する実証的研究―教育年限延長時における政策過程の分析―
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25381088
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
柏木 敦 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00297756)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 教育史 / 初等教育 / 義務教育年限 / 二重学年制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、当初の計画を変更して義務教育年限延長時に制度化された二重学年制の実施状況に関する調査・研究を行った。前年度までの調査・研究で明らかにしたように、二重学年制は義務教育年限の延長に対応して導入された制度であり、日本の義務教育制度のあり方を大きく変える可能性を持った制度変更であった。しかし実際に導入・実施された例はごくわずかであり、一般化には至らなかった。そのような中で富山県は全国で唯一、市レヴェルで一定の期間、二重学年制を導入した。この富山県の導入例は、二重学年制のメリットとデメリット、日本の初等教育制度における二重学年制の利点や現実的な限界、そして以後定着するに至った日本の義務教育制度の形態を裏づける要素を明らかにする好個の事例であると同時に、義務教育年限延長政策の検討を課題とする本研究が看過できない事例である。にもかかわらず富山県の二重学年制に関する先行研究は、およそ自治体教育史、自治体史での記述に止まっている。このような理由から平成27年度は富山県を対象地域として、以下のような調査を行った。 富山県立図書館では二重学年関係刊行物、富山県統計書、雑誌『富山教育』、『富山日報』の調査・複写を行った。富山県公文書館では富山県が富山市と行った、二重学年制の実施に関わる往復文書、『富山県報』を確認・複写した。富山市公文書館では二重学年制実施期間中の富山市会関係文書を調査・複写した。また富山県の教育資料の収集・調査を行っている富山県教育記念館に関係史料の有無を問い合わせ、同館の史料の不在を確認した。 これらの調査を通じて二重学年制の議論、および展開に関わる具体的状況を、先行研究よりも踏み込んだ形で明らかにすることができた。調査の成果は教育史学会大会(於、宮城教育大学)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究費補助期間中に、申請者が当初予期していなかった研究機関の異動があり、本務の状況(講義負担数や校務の負担量およびその集中時期)や環境、勤務条件(特に通勤時間)が大きく変わってしまった。そのため当初計画で予定していたエフォート配分をもって研究を遂行することができず、結果的に研究が当初予定よりも大幅に遅れざるを得なかった。特に史料調査遂行のための時間を確保することができなかったことが、研究の進捗が遅れた最大の理由であった。 また当初、研究遂行の上での必須資料として購入を予定していた資料(『日本近代教育史料大系』龍渓書舎)の出版・刊行が当初予定よりも大幅に遅れ、当初研究期間内に全巻刊行される予定であった資料集が、刊行終了期未定のまま、結果的に研究期間中に刊行されなかったために、予算を計画通り執行することができなかった。 以上のように、研究計画当初予期しなかった事態が重なることで資料調査、基礎文献購入という二点で研究を当初計画通り進めることができなくなり、全体として研究が遅れざるを得なかった。 ただし研究遂行中に義務教育年限延長に際しての重要な政策として、二重学年制を中心的に検討の対象に据えることに計画を変更し、二重学年制および富山県を集中的に調査することができた。このため当初の予定からの変更はあったものの、課題の目的に合った新しい事実を発見、検討の対象とすることができた。また購入資料面でも二重学年制の検討に合わせて、義務教育年限延長期に刊行された雑誌『小学校』の復刻版を購入して検討対象の変更に対応した必要資料を備えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初平成27年度までの予定であったが、補助事業期間延長の申請をし、承認された。購入予定の資料(『日本近代教育史料大系』龍渓書舎)は2016年3月に刊行される旨、出版社より連絡があったので、速やかに購入して、研究成果に反映させたい。 また非常に短期間、かつ限定的な範囲であるものの、義務教育年限延長後に二重学年制を実施した奈良県の史料を調査する予定である。 研究論文については、前年に教育史学会にて成果報告をした内容(「小学校における二重学年制の導入と実施状況――大正期富山市における秋季学年制――」)を論文化し、今年度中に学会誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
進捗状況欄でも述べたように、本研究費補助期間中に、申請者が当初予期していなかった研究機関の異動があった。このため本務の状況や環境、勤務条件が大きく変わってしまい、予定通り複数の県を対象とした長期的な資料調査を行うことができず、旅費の使用計画が当初予定と大きく異なった。 また当初、研究遂行の上での必須資料として購入を予定していた資料(『日本近代教育史料大系』龍渓書舎)の出版・刊行が当初予定よりも大幅に遅れ、当初研究期間内に全巻刊行される予定であった資料集が、刊行終了期未定のまま、結果的に研究期間中に刊行されなかったために、予算を計画通り執行することができなかった。また上記史料集の欠落を補うため、当初予定になかった『小学校』(復刻版)を購入し、義務教育年限延長時の教育状況を把握する史料として代替した。このため備品の使用状況が計画と異なってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定の資料(『日本近代教育史料大系』龍渓書舎)は2016年3月に刊行される旨、出版社より連絡があった。速やかに購入し、研究成果に反映させたい。したがって備品については計画していたものを購入できる予定である。備品の購入額については当初計画を大幅に上回ることになるが、調査対象を絞り込んだ結果生じた旅費の余剰分をこれに充てたい。 またこれまでの研究の途上で、奈良県女子師範学校附属小学校で二重学年制が一時的に設置されていたことが判明した(この点については昨年行った教育史学会での報告内容に含めた)。この二重学年制の実施を裏づける資料を確認するため、奈良県立図書情報館所蔵の奈良県庁文書および教育雑誌類を調査する予定である。
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Research Products
(2 results)