2013 Fiscal Year Research-status Report
社会教育・成人教育活動における公立学校の地域開放史に関する日英比較研究
Project/Area Number |
25381092
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
関 直規 東洋大学, 文学部, 准教授 (50405106)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フリー・インスティテュート / 無償型成人教育 / 学校開放 / ポプラー / イースト・エンド / タワー・ハムレッツ区 / エスニック・マイノリティ / アイディア・ストア |
Research Abstract |
この研究は、社会教育・成人教育活動における公立学校の地域開放史について、日英の比較考察のアプローチから明らかにすることを目的としている。本年度は、日本では入手困難な一次資料の発掘のため、英国現地のナショナル・アーカイブズ等を訪問し、ロンドン教育当局の中核的な成人教育活動の一つであったフリー・インスティテュートに関する一次資料や文献等を調査・収集の上、整理・分析した。考察の結果、次の諸点が明らかになった。 まず、同インスティテュートは、受講料を負担できない市民のために、公立学校を夜間に開放するかたちで、1913年に誕生した。そのルーツは、受講者の深刻な出席問題を抱えていた普通夜間学校であったが、有償化への切り替えや登録料制度の創設等を通じて、その後の発展基盤が構築された。開校地は、ポプラーを中心とする貧困地区に集中しており、身近な公立学校を拠点とする無償型教育への地元の期待は大きかった。基礎、実用及びレクリエーション科目を、性・年齢別にきめ細かく提供し、社会的不利益層の参加を促していった。受講者のニーズや社会的背景等に配慮し、夜間教育活動の伝統を再構成することによって、無償型成人教育という貴重な役割を担ったのである。 以上の原理的研究と並行して、ロンドンの成人教育活動の現代的価値を検討するため、エスニック・マイノリティが集住するタワー・ハムレッツ区の新しい教育施設であるアイディア・ストアを取材・考察した。アイディア・ストアは、市民への綿密な聞き取り調査等を元に構想された図書館と成人教育センターの複合施設であり、最初の試みが2002年に開館し、現在までに5館が完成している。飛躍的に増加した利用者は、地域のエスニック・グループの構成比と比例する成果を得て、個人ないしコミュニティに対する重要性についての市民の支持も高いことがわかり、成人教育活動の今日的意義を把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
無償型成人教育の特質を持つフリー・インスティテュートに焦点を当てて、ロンドンの成人教育活動における公立学校の地域開放史を明らかにした。地域に密着した公立学校の施設・設備の開放が、大都市内部の地域的多様性に応ずる柔軟かつ効果的な方策であり、劣悪な労働・生活環境がもたらす人間疎外を克服し、コミュニティ形成に寄与する先駆的取り組みであった点を実証的に解明することができた。 また、人口増加と民族的多様性が進み、現代イギリスにおける最貧困地区の一つとなっているタワー・ハムレッツ区が開設したアイディア・ストアの戦略・発展及び成果を考察した。綿密な調査に基づき、社会的孤立を解消するためのコミュニティのハブ機能を充実させることによって、同施設が市民生活の不可欠の一部となっている実態を捉えることができた。この成果は、成人教育活動の意義を確認し、原理的研究に必要な現代的課題意識の明確化に資するものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
英国現地のアーカイブズ等で、主要な成人教育活動に関する一次資料の発掘を継続し、ロンドン成人教育史研究を進める。また、同時代の東京市の社会教育史の分析に着手する。両大戦間期の東京市が開発した代表的な社会教育活動について、公立学校との相互関係や学校施設・設備の開放並びにそれを支えていた論理等を明らかにする。その際、ロンドンと同様に、東京市の学校開放も、大都市内部の地域的多様性に対応する方法であったことから、それぞれの開放地区の労働・生活環境や地域住民の特性に配慮することが重要である。 なお、東京市の社会教育史に関する一次資料は、膨大かつ広範囲に散在しているため、都内の公文書館等での調査・収集活動に鋭意努力し、目録化・分析を着実に推進する。さらに、日英の社会教育・成人教育活動の相違点や共通性等に留意しつつ、専門学会における口頭発表及び学術論文の執筆によって、研究成果を積極的に公表する予定である。
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