2014 Fiscal Year Research-status Report
社会教育・成人教育活動における公立学校の地域開放史に関する日英比較研究
Project/Area Number |
25381092
|
Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
関 直規 東洋大学, 文学部, 准教授 (50405106)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ジェネラル・インスティテュート / 郊外生活 / 東欧系ユダヤ人移民 / 貧困救済 / 映画教育 / 関野嘉雄 / 児童映画日 / 児童の映画熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会教育・成人教育活動における公立学校の地域開放史について、日英の比較考察のアプローチから明らかにすることをねらいとしている。今年度は、国内の東京都公文書館や英国現地のロンドン・メトロポリタン・アーカイブス等での一次資料の調査・収集に基づき、東京市とロンドン・カウンティ・カウンシルの代表的な社会教育・成人教育事業であった映画教育とジェネラル・インスティテュートの実態を解明する研究を実施した。考察の結果、以下の諸点が明らかになった。 まず、東京市の映画教育事業は、大都市における児童の社会化環境の改善のため、映画の観覧を教育的に再定義することから出発した。東京帝国大学を卒業し、映画への見識と情熱を持つ関野嘉雄を専門職員として迎え、映画館自体の改善を通じて、高まる映画熱に対処しようと、児童向けの映画を映画館で上映する児童映画日を試みた。関野は、児童に概念を押し付け、映画の特性を活かしていない学校の映画教育を批判している。東京市の実践は、社会や日常生活を中心とする映画教育論を基盤とするもので、戦前期の我が国の映画教育運動において独自の軌跡を描くものであった。 ロンドン・カウンティ・カウンシルが多方面にわたる教育活動を提供する夜間教育機関として構想したジェネラル・インスティテュートは、次の三つのタイプに分類することができた。第一に、郊外生活型は、良質の郊外住宅地に開校し、生活の充実を求める市民の文化的要求の高まりに対応した。第二に、貧困救済型は、臨時雇い労働者等が暮らす貧困地区で、伝統的な公立夜間学校と同じ機能を発揮した。第三に、移民支援型は、成人基礎教育に重点化し、東欧系ユダヤ人移民が集住する地域で、外国人向けの英語クラスを開講した。現場の考察から、地域に密着した成人教育の発展史を解明する成果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京市の中核的な社会教育事業の一つであり、同時代に全国的な注目を集めていたが、これまでその実態が不詳であった映画教育の論理と実践を実証的に明らかにした。とりわけ、映画の芸術性と総合性を重視する関野の姿勢が、興行映画を批判的に捉え直す基盤となり、映画の特性を活かす社会教育固有のアプローチに結びついていたことを解明した。 また、従来、資料的制約や活動の総合的性格から、国内外の先行研究で本格的な検討がなされてこなかったジュネラル・インスティテュートの実践を考察した。その結果、郊外生活型、貧困救済型ないし移民支援型という三つのタイプに分類することができた。そして、それぞれの開校地が求める教育ニーズや社会的条件等に柔軟に対応することによって、成人教育の地域的多様化をもたらしたことがわかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
日英の公文書館やアーカイブス等が所蔵する一次資料の調査・発掘に継続的に取り組みながら、東京市とロンドン・カウンティ・カウンシルの社会教育・成人教育活動の検討を進める。特に、ロンドンの成人教育体系の一部を成す専門的な夜間教育機関であったが、その実情が必ずしも十分に解明されていないデフ・インスティテュートの事例分析を行う見込みである。 その上で、これまでの本研究課題の成果と統合し、同時代の両大都市の社会教育・成人教育活動の現場とその特質を考察したい。分析にあたって、大都市内部の地域的多様性や開校地区の戦略的選択等に焦点を当て、地域の主たる教育資源の一つであった公立学校の活用についての日英の共通性と相違点に留意する。なお、研究成果は、学術論文の執筆等によって、広く公表する予定である。
|