2013 Fiscal Year Research-status Report
地域間文化交流を通した生涯学習の促進に関する実証的研究
Project/Area Number |
25381101
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
内山 淳子 佛教大学, 教育学部, 非常勤講師 (90648081)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地域づくり / 文化交流 / 生涯学習 / 公民館 / 社会教育 / 住民自治 / 協働 / 参加 |
Research Abstract |
本研究は地域文化を重視した地域づくりを続けてきた三重県内の漁村部と農村部(鳥羽市答志地区・伊賀市比自岐地区)を対象地とし、双方の文化的特徴を明らかにした上で、これらの地区で行われている文化交流活動による成果を教育学の視点から検討していく。報告者は、答志地区の文化継承に関しては一定の研究蓄積があり、25年度は主に比自岐地区の分館公民館を拠点とした地域づくりの経緯を調査した。結果は以下のようである。 1.社会教育の興隆(1970年代):旧上野市の中央公民館が進めた社会教育実践と比自岐公民館での活発な学習活動の状況を収集史料から検証した。中でも比自岐公民館郷土史教室が中心となって伝統行事(祇園踊)の復活を行い、市の無形文化財の指定を受けて現在に受け継ぐ経緯をヒアリング調査等から明らかにした。 2.生涯学習振興行政への転換(1990年代):社会教育行政職員が順次公民館より引きあげられ、地区住民が社会教育委嘱委員から専任嘱託職員として公民館兼市民センターの運営に携わるようになった。同時期に、地区住民は産業や環境保護を発信する町おこしイベントを開始し、行政や生涯学習ボランティア団体との連携により恒例化させている。 3.市町村合併以降(2004年~):「伊賀市自治基本条例」により住民自治協議会が発足し、地域内分権の基礎単位として公民館分館(市民センター)が考えられるようになる。比自岐地区住民自治協議会は地域づくり計画を策定して、高齢者福祉など生活上の諸課題に対応する役割をも担うようになり、地区内の協力はさらに重要になっている。 以上のように、一公民館分館を中心とした地域活動を詳細にたどることで、地域における住民の学習と教育政策・自治政策の変化が明確になった。制度化の進む「協働」「住民自治」においても、住民の主体的な参加意識を涵養する機会と行政支援の継続が重要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の目標であった伊賀市比自岐地区の地域文化と比自岐公民館における社会教育活動に関する調査研究を行い、現地にて収集した社会教育関係資料と関係者からのヒアリング、および行事観察によって、現在までの地域づくり活動の経緯が明らかになった。研究結果は学会発表「行政機構改革における地域公民館活動の展開―伊賀市比自岐地区にみる住民自治」(日本生涯教育学会)と学術論文「住民自治の進展における「参加」と「協働」―伊賀市公民館活動の歴史的考察―」(佛教大学教育学部学会紀要)として報告した。 研究成果は以下のとおりである。比自岐公民館活動の展開は独自性をもつが、制度としては国の教育政策・自治政策を反映して進行し、各時期とも住民の協力により成功をおさめてきた状況が確認できたことである。 すなわち、1970年代には旧上野市の社会教育推進体制と中央館・分館の活動、当時の公民館運営審議会や公民館主事・青年主事・産業主事といった民間委嘱委員の存在、および比自岐公民館での学習の活況が明らかになり、その後、1990年代には職員体制が民間人へと移行する中でまちづくり活動が活発になっていった状況が具体的に確認できた。さらに、合併後の伊賀市では、地域住民は地域づくりの主体として位置付けられ、活躍を期待されている。 現時点の自治体と住民との協働体制は、政策を実践する模索の段階であると考えられる。担い手である住民の合意に基づいた地域づくりの方策を、地域づくりがもたらす人々の生涯学習としての意味と支援に注目して引き続き考察していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、比自岐地区の交流先である答志地区の地域づくり活動の現状を調査し、研究を継続してきた当地の文化的風習「寝屋子制度」の現代的意義についても考察を深める。 引き続き、25年度に明らかにした比自岐地区の文化的特徴と自治体施策の状況を視野に入れ、答志・比自岐地区間の文化交流活動に焦点を当てた調査を開始する。交流活動を開始した要因から現在までの経緯を、進展状況、交流事業の内容、活動のリーダーシップ、地区の子どもたちの参加、自治体の支援、直接活動に参加はしていない地区の人々への影響等の観点から検討を進める予定である。 研究成果は26年度内の学会発表および学術論文により報告を行う。また、27年度に作成を予定している2地区の地域文化資料集のデータ蓄積に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では公民館活動による地域づくりに実績がある島根県、沖縄県を訪問し、活動の見学および関係者のリーダーシップについてヒアリングを行う予定であった。また、学校と地域住民との関係構築の成功例を調査するために米国カリフォルニア州の公立小学校を視察する予定であったが、いずれも日程調整がつかず断念した。その結果、主に研究対象地でのフィールドワーク・文献調査が中心となり、次年度に研究費の一部を繰り越すこととなった。 26年度も当該研究の対象地に関して調査研究を続行し、有益な成果があれば国内外の学会で発表する予定である。対象地で行われる文化交流事業のオブザーブ、ヒアリングを行うために継続的な現地調査が必要となる。別途、参考となる他地域の地域活性化実践の視察も検討している。当該研究は、地域文化の存続と地域振興の方策の検討を研究目的の一つと考えており、本テーマが国際的な課題とみなされ国外発表が可能となれば渡航費の支出が予想される。
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