2013 Fiscal Year Research-status Report
地方ノンエリート青年の社会的自立と進路指導・生徒指導の改善に関する研究
Project/Area Number |
25381118
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
浅川 和幸 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30250400)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 教育社会学 / 北海道 / 地域調査 / 進路指導・キャリア教育 / 地方ノンエリート青年 / 地域格差 / ローカルトラック / 地域の担い手 |
Research Abstract |
研究の最終目的は中等教育段階の学校における進路指導と生活指導の改善にある。それを地方のノンエリート青年の社会的自立を背景に理解するのが研究方法であった。本年度の実証研究の対象は、北海道の人口約1000名の西興部村である。村の若き担い手の生活と将来志向に踏み込んで、ノンエリート青年の社会的自立を明らかにし、中学校における進路指導や生徒の進路志向の関係を探るのが本年度の研究であった。 具体的な内容は次の通りである。①西興部村には高校がないことに考慮して、1校しかない中学校の学校管理職に対する機関聞き取りと中学3年生全員(10名)に対するインタビュー調査を行った。さらに村の若き担い手=青年調査を行った。②村は酪農専業地帯である。これを考慮して、若手酪農家(経営者の場合も、後継者の場合もあった)6名に対するインタビュー調査と村役場の酪農振興を担当する主幹からの機関聞き取りを行った。また村最大の雇用の受け皿は福祉(老人介護施設)である。福祉労働者は村の若き担い手でもある。③村最大の老人介護施設の福祉労働者5名に対するインタビュー調査と施設長・総務課長に対する機関調査を行った。比較のために④総務省主管事業である「地域起こし協力隊」(彼らも青年である)の隊員3名にインタビュー調査を行い、都市から一時期に村にやってきた青年がどのように村における社会関係を育み、村を評価しようとしているのかについて明らかにした。これ以外にも、製造業(木工関係の企業)の社長・生産責任者と若手従業員1名に対するインタビューや役場教育委員会に対する機関聞き取り調査をおこなった。 研究成果は、2014年3月に中学校における報告会と村における報告会で発表され還元された。 さらに北海道の教育の地域格差の現状を明らかにするために大学進学を事例とした統計分析を行い、拡大を続ける現状を明らかにした。学会発表し、論文化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果を要約する。①中学3年生は高校進学時点で西興部村から別の市町に進学するしかないという現実を背景に、また消費生活への強いコミットメント志向も背景に、村から脱出してゆく志向をもっていた。しかし、一部の生徒は村の自然・社会生活の都市とは違う豊かさや保護者の社会関係を資源としながら、前述の脱出志向から免れていた。②酪農の若き担い手は、地域農業がもはやこれ以上は立ち行かない状況のなかで、生産の集団化(集落集団営農体制の模索)や多頭化・高泌乳をめざさない小規模家族経営の現代的な模索の二つの異なる方向性の模索を行っていた。村の酪農が極限まで縮小したからこそ、生き残りに向けて、二つの模索は緊張関係をはらみながらも理解し合い、担い手としての自覚を高めていた。しかし、中学3年生は酪農には興味をもてず、両者のつながりは絶たれた状態にあった。③他方で福祉の若き担い手は老人介護施設での24時間労働のなかで、自然のリズムで進行する「村の時間」や村的な人間関係への不適応をおこし、居住はしていても「棲んでいない」状況にあった。これが福祉労働者が出稼ぎ的にならざるを得ない理由となっていた。そして福祉にも、中学3年生は興味をもてず、つながりを絶たれた状態にあった。しかしながら、福祉労働者の地域的な移動は広域の(旭川市-名寄市-下川町-西興部村-興部町-紋別市)移動圏とでも呼びうるローカルトラックを形成していることが明らかになった。中学3年生に福祉職の希望者はいなかったが、このトラックの存在は若い女性が都市に一方向的に流出するのとは異なる別の可能性を示唆している。 さらに北海道の教育の地域格差を大学進学を事例として統計分析し、拡大を続けていることを明らかにした。 このように研究成果はおおむね順調に進展しているが、村を越えるローカルトラックの現状の把握という点で、研究課題の一部変更を必要とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度において北海道の教育の地域格差を明らかにする研究を進めることができたが、西興部村の調査についてはまだ地域へ報告会を行っただけである。次の点に関する研究の強化と研究計画の一部変更を行う。 研究の強化について。村の地域調査の実施・分析と成果の還元を学会発表と論文の作成に結びつける。北海道教育学会での発表と論文投稿を目標とする。 研究計画の一部変更とその内容。①当初の研究課題に上げた興部高校・紋別高校調査を、道北地域の中等教育の連携とこの背景をなすノンエリート青年の移動実態の把握に切り換える。そのため下川商業、名寄高校・名寄産業高校も視野に入れる。当初の研究計画では別の地域(知内町)との比較研究を構想していたが、本年度の研究成果から明らかになった労働のローカルトラックと教育のローカルトラックを背景に、進路指導・生徒指導を考える。比較の対象を興部町・下川町に換える。さらに科学研究費の最終年度まで見通すと、道北地域の国道239号線(名寄市-紋別市の間の町村)によって結ばれた地域間連携(これは士別市・名寄市の地域定住圏の一分肢をなす)の社会的背景となる労働と教育のローカルトラックの現実のなかに、西興部村・興部町・下川町の比較を位置づけるという方法に変更する。このような意図で、今年度の実証研究の対象を興部町に据え、ノンエリート青年の社会的自立の実態と中等教育における進路指導や生活指導、そして生徒の進路志向の調査を行う。 興部町の主な産業は酪農と漁業である。ここに若き担い手が集中する。彼らへのインタビュー調査と必要な機関聞き取り調査を行う。中学校は2校、高校は1校存在する。高校を中心に、学校への調査と高校3年生の学校生活と進路志向に関するインタビュー調査を行う。 これら全体を通じて、労働と教育のローカルトラックを背景にノンエリート青年の社会的自立と中等教育の課題を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の所要額1,040,000円のうち、平成25年度の実支出額累計額は992,438円となった。差額は、47,562円である。平成26年度に興部町における実態調査を予定しているが、旅費が平成25年度よりも多額になる可能性がある。そのため、図書購入として物品費を支出するよりも、次年度に振りあてることにした。この額と平成26年度の所要額(650,000円)と合わせた697,562円(間接経費150,000円を含む)を使用額とする予定としている。 平成25年度における西興部村の地域調査と同様に、平成26年度の興部町の地域調査においても、調査員として学生を用い次の調査を行う予定である。①興部高校の高校3年生の学校生活と進路志向に関するインタビュー調査、二つの中学校の3年生のアンケート調査、②町の若き担い手のインタビュー調査(現在のところ酪農と漁業を考えている)である。これに学校・農協・漁協等の機関聞き取り調査を行う。中学3年生・高校3年生や、青年の調査を行うので年齢の近い調査員が必要である。 大学院生を交えた9・10名の学生と研究代表者による地域総合調査を行う。興部町は道北にあるため交通費がかかる。また、調査全体は三泊四日程度で、その分の宿泊費を予定している。地域調査の旅費を総計約500,000円と見込んでいる。平成26年度所要額のほとんどを旅費に振りあて、次年度使用額とした47,562円をテープ起こし等にあてる計画である。
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