2015 Fiscal Year Research-status Report
格差社会における高校生の進路保障の研究-オンタリオ州のリスク生徒支援と比較して-
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25381143
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
佐藤 智美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (80240076)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山村 滋 独立行政法人大学入試センター, その他部局等, 教授 (30212294)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リスク生徒 / 学習支援 / 社会的支援 / 地域 / コミュニティ / 教育格差 / 貧困 / パスウエィズ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には、カナダ、オンタリオ州トロント、リージェント・パークを発祥の地とするパスウェイズとそのプログラムについて考察した。カナダ全土の低所得コミュニティに展開を拡大しているパスウェイズ・プログラムは、それぞれのコミュニティで成果を上げつつある。2001年にリージェント・パークで実施が始まったパスウェイズ・プログラムは2016年4月現在、オンタリオ州内外の17の低所得コミュニティでリスク生徒を学習面、経済面、社会面、擁護を柱とした支援を行っている。本年度は短期間でこのようにプログラムの実施コミュニティがカナダ全土に拡大していく成功の鍵とは何かの分析を主な課題とした。トロントにあるパスウェイズ・カナダを訪問し、そのプログラムの特徴や広域にわたる実施について聞き取りを行った。また、その際、オンタリオ州内のキッチナーでプログラムを実施して支援を行っているパスウェイズ・キッチナーのスタッフにも聞き取りを行った。パスウェイズによれば、コミュニティによって個性が異なり、同様の個性を持つコミュニティ間で情報を交換しつつ、プログラムのより効果的な実施方法を試みていることが分かった。パスウェイズ・カナダとしても、コミュニティの個性に合わせた柔軟性と4つの支援内容を柱として重視していることが分かった。 また、日本では京都山科区の勧修中学校での学習会の進捗状況について調査した。勧修中学校では、学習支援の対象を中学3年生のみから中学1,2年生にも広げており、生徒の参加が増加している。特に、支援は週に1回であるにもかかわらず、地域住民のボランティアと生徒との関わりによって、生徒に落ち着きが見られ始めるなど変化が生じていることが分かった。支援の場所が学校内であるために、支援方法に制限が生じることがあるため、そのような制限からくる不利益を克服することが一つの課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展している。本研究の主な課題となっているオンタリオ州のリスク生徒支援については、トロント、リージェント・パーク発祥の非営利組織であるパスウェイズとそのプログラムの内容による支援が著しい成果を上げていることが分かった。現在までのところ、パスウェイズと実施方法に関して、発祥地リージェント・パークを訪問し、コミュニティ内の実施現場での聞き取りと観察を通して、実施状況を具体的に理解することができた。低所得コミュニティでの支援活動の成果はオンタリオ政府も認知しており、多大な財政援助をしている。その成果をふまえパスウェイズは、現在カナダの17か所の低所得コミュニティで支援プログラムを実施していることが分かった。このプログラムは、学校と連携したコミュニティや生徒の特性に基づいた学習支援、社会的支援、経済的支援、擁護の4つを柱とした住民の専門性や関心を生かした支援である。その結果、支援地区ではリスク生徒の中等学校修了率や高等教育への進学率が顕著に向上したことが明らかになった。 一方、日本で地域社会を基盤とした支援の取り組み例として京都山科区で住民ボランティアによって実施されている勧修中学校の高校進学のための学習支援を調査することができた。まさに地域とのつながりを活用して生徒の学力向上と進路を保障する取り組みである。この取り組みの大きな特徴の一つは従来困難であった、学校との連携により校内で支援を展開していることである。支援母体ともいえる山科青少年活動センターは、学校との協議を重ね、多くの学生や地域住民の参加を得て取り組みを実現させていることが分かった。 ここまでの研究結果から、パスウェイズのプログラムは汎用性が高く、生徒にもコミュイティにとっても利益となることが多く、カナダ国内での拡大のみならず、日本社会での応用の可能性があることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までのところ、研究計画以上の成果を上げている側面もある。たとえば、パスウェイズについては、そのプログラム内容や方法のみならず、実施現場における状況やコミュニティによる特性についても現場で聞き取りをすることができ、情報が得られた。また、京都山科区の中学校における学習支援の実情と課題、今後の展望についても情報を収集した。本研究はおおむね計画通り進捗しているものの、日本社会における支援の現場に関する情報収集と理解をさらに進めたい。 今後は、現在までの研究の成果を整理し、パスウェイズ・プログラムの汎用性と有効性を分析し、日本の地域社会での応用可能性について考察することを研究の一つの方向とする。
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Causes of Carryover |
前年度の旅費使用額が予定していた額をやや下回ったことと、その他の出費がなかったために、94331円の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分とした助成金は国内での調査対象に名古屋での支援プログラムを新たに加える予定があり、その調査のために使用する計画である。
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Research Products
(2 results)