2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリスの学校選択制導入(free school)をめぐる地域葛藤に関する研究
Project/Area Number |
25381146
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
加藤 潤 愛知大学, 文学部, 教授 (80194819)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | free school / イギリス教育 / アカデミー / 学校選択制 / 市場原理 |
Research Abstract |
25年度の研究目的である、学校選択制の理論的背景、イギリスの選択可能学校(free school)導入までの、政治的、歴史的経緯については、ほぼ事実確認と理論的整理ができた。すなわち、イギリスにおける選択可能な学校は、1990年代に保守政権が導入した、GM(grant maintained school)が続く労働党政権(ブレア、ブラウン政権)で脈々と生き続け、政権交代を機に形を変えて生まれたと考えられる。free school導入まえにもすでに、 academyという政府から助成金を特別に得て作られる特色ある学校が中等学校で生まれており、free schoolはその発展形といえる。 これらをもとに、25年度の研究では、具体的に調査対象にするfree school の選定をおこなった。結果としては、当初計画していたBristol市内のfree schoolに加えて、デボン州、エクセター市周辺の「親によるfree school 設立運動」も事例として加える計画である。これは、地元校と親による設立学校との教育内容に差が大きく、教育界からは批判の多い学校である。この事例をつぶさに検証することによって、学校選択が地域住民の間にある種の断絶(segment)を生むかどうかについて、実証的な説明ができるのではないかと考えている。 これらの成果については、2014年6月21日、中部教育学会で発表する予定である。また、理論的研究を遂行する過程で、イギリスにおける新しい道徳教育についての試みが事例として明らかになったことから、副産物として、我が国における道徳教育と比較検討し、新しいタイプの道徳教育についての論考をまとめた(愛知大学教職課程研究年報、第3号所収)。 25年度の研究遂行で整理した、学校選択制に関する、イギリスと日本における理論的動向は、比較可能なデータとして広く研究者に公開すべく、研究資料もしくは研究論考の形で愛知大学教職課程研究年報(26年度)に発表すべく、論稿を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論研究については、ほぼ終了したことから、おおむね順調といえる。ただ、Times Educational Supplementの記事整理が若干のこっており、これは、26年度以降も引き続き行う予定である。イギリス教育学における、学校選択に関する論文レビューは2008年度から2013年度まで、国立国会図書館のデータベースで行い、関連論文は8割程度複写し終えた。できれば、26年度も、残る2割の複写と、他の教育学学術書(Harvard Educational Reviewなど)の論文レビューについても、現地調査までにできる限り行いたい。 現地調査の準備については、エクセター大学よりvisiting professorの地位を獲得し、2014年1月に学長名で正式に認可通知書を受け取った。これをもとにビザを取得し、現地校への紹介(現在、エクセター大学教育学部、Jos Sumner氏に依頼中)を待って、正式に渡英日程を立てる段階に来ている。 イギリスにおける教育改革の動向を追跡するために、昨年からTimes Educational Supplement記事の抜粋とその翻訳を進めているが、これらをファイル化し、記事タイトル目録のような形で公開することを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
先に述べたように、26年度は8月にイギリス調査を予定している。ここでは、free school(エクセター市周辺一校、ブリストル市周辺一校)での教員への聞き取り調査、住民、地元教育局(local edudation authority)での聞き取りを予定している。加えて、エクセター大学教育学部付属図書館では、日本で入手できない教育雑誌、政府官報(circular)を検索、複写する予定である。英国での調査日程は以下の通りである。 ①8月初旬渡英。②8月中旬までエクセター大学教育学部付属図書館において文献検索。③8月下旬エクセター周辺free schoolでの聞き取り調査。④9月上旬ブリストル周辺free schoolでの聞き取り調査。 これらの音声データ、文献データの入力作業、タイトル整理を9月以降に行う予定である。これと並行して、我が国における学校選択制の議論(たとえば、藤田―黒崎論争、それ以降の議論)を整理する。東京における学校選択制導入後の影響、愛知県における学校選択制導入の動き(愛知県瀬戸市)を先行調査し、次年度のフォーマルな質問項目づくりの基礎資料にする。 これらの調査が順調に進んだ場合、そのフォローアップ調査を27年度に計画しているが、その際には地方教育行政官、中央教育行政官をできる限り入れたい。それというのも、イギリスの場合、伝統的に地方教育局の力が強く、中央との対峙がみられることから、現在の学校選択制の背景を解明するためにも欠かせないインタビューとなるからである。また、近年、企業が新しいタイプの学校運営に進出している。この動向は新たな教育への市場原理導入として見過ごすことができないことから、企業の教育進出についても調査したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の研究計画において、国立国会図書館でのデータベース検索、複写が一回で終了したことと、イギリスにおける学校選択制、学校改革に関する文献購入費が予定より安価に抑えられたことによって、差額が生じた。さらに、教育新聞(TES)購入費は取次店を選定したときに、もっとも安価な見積もりを採用したところ、かなり節約ができたことが大きい。 なお、研究助言者との打ち合わせについては、データベース検索の折に済ませることができたことと、メール交換によって研究助言者からアドバイスを得ることができたため、そのための旅費は使わなかった。 この費用は、26年度の海外調査費に計上したい。現在、イギリス通貨(ポンド)の高騰により、滞在費の正確な見積もりができず、不足する恐れもあるからである。また、イギリス教育改革関係の文献購入は26年度以降もかなり必要となり、その冊数は正確には査定できないので、少し余裕をもって予算を取りたいと考えている。25年度で余った予算については、以下のように26年度で使用したいと計画している。 1)8月の海外調査費。2)イギリス教育改革関係文献購入費(洋書、和書)を当初計画より増やしたい。3)海外調査で収集したデータ整理に時間がかりそうなので、人件費としてゆとりをもった計画を立てたい。4)25年度の研究遂行から明らかになったが、日本の学校選択制についての比較調査がまだ緒に就いたばかりで、26年度に集中的に進めたい。
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Research Products
(2 results)