2014 Fiscal Year Research-status Report
ワークショップ型社会科における授業構成ストラテジーの開発的研究
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25381162
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 教育学 / 社会科教育 / ワークショップ / カリキュラム / 教材開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究実績は、次の4点である。 第1に、「対話理論」の「探究」の対話モデルにもとづく単元の開発と検討を行った。探究タイプは、仮説をたて立証ないし反証することを目指すものである。単元は、中学歴史「めざせ豪商!大江戸ビジネスプラン選手権」である。主題は、「17世紀中頃から19世紀初頭の日本で商売をすると、どこで何をすると儲かるか」である。生徒は、たとえば、「大阪で灯やをすると儲かるのではないか」と仮説をたてる。それを根拠と理由づけの論証のスキルで立証していくのである。この単元での学びをコンピテンシーベースの学力論から検討を加え、全国社会科教育学会(愛媛大)で発表した。 第2に、ワークショップ型の「授業構成ストラテジー」の析出である。前述の大江戸ビジネスプラン選手権の実践に、初任者からベテランまで3人の教師が取組み、各々の実践と思考プロセスについて聞き取りを行った。初任者とベテランの語りの比較から、ワークショップの活動空間を生徒の思考から吟味する点と、生徒の「ふり返り」表現の評価規準の2点において違いがあることを見出した。この研究成果は、日本社会科教育学会(静岡大)で発表し、論文として刊行した。 第3に、26年度に訪問した学校調査を、継続して実施した。富山市立堀川小学校である。学習者に「探究」に取り組ませる活動空間のあり方と教師の指導について、有益な示唆を得た。 第4に、26年度末に、研究成果を検討する研究会を開催した。猪瀬武則氏(日本体育大学)を招請し、本研究へのコメントをお願いし、研究協議を行った。活動を通して生徒が獲得する社会科のコンピテンシーをあらかじめどのように想定して、それを組み込んだ活動空間を設計するかについて協議した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は2つある。第1に、学習科学のひとつである「対話理論」と協同学習の手法を用いてワークショップ社会科授業論の発展をはかること。第2に、その成果を統合して、個々の教員がワークショップ型授業を開発し運営する際の「授業構成ストラテジー」(指針と手立て)を明らかにすることである。 第1の目的について。26年度は、「探究」タイプの単元開発と分析を行った。「交渉」タイプの単元開発については、27年度に持越しとなった。一方、これまで開発した「熟考」「説得」「探究」の単元開発をコンピテンシー・ベイスの学力論から見直すことを行った。その結果、「対話理論」をワークショップの活動空間を設計する指針というより、むしろ学習者の思考の「構造」ないし「コンピテンシー」として捉え直す方向が見えてきた。活動空間と思考との関連をさらに精緻化する課題である。 第2の目的について。26年度は、「授業構成ストラテジー」の析出に向けて、新たな方法を試みた。同じ単元のワークショップ型授業に取り組む初任教師と熟達教師の「実践と思考のプロセス」を聞き取り、比較するという方法である。この結果、ワークショップ型社会科の授業構成ストラテジーを明確化するための枠組みを得た。初任者と熟達者の間には、学習者の思考から活動空間を吟味する精緻さと、学習者のふり返り表現を評価する規準(スキル重視か内容重視か)の2点において違いがあった。26年度に明らかにした枠組みをもとに、さらに事例をふやして検討し、授業構成ストラテジーの分析をすすめることが、27年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は、次の4点にわたって研究をすすめる。 第1に、「対話理論」の「交渉」モデルにもとづく単元開発である。26年度の持越しの課題となっていたものである。単元は、明治の条約改正プロセスを素材とする外交交渉のロールプレイの活動空間を予定している。実験授業は、山形大附属小と山形大附属中を予定している。 第2に、「対話理論」をコンピテンシー・ベイスの学力論として再定位するよう研究を進めることである。ワークショップの活動空間でどのような思考を学習者にさせることが、社会科ならではの見方考え方を育成し、汎用的なスキル(コンピテンシー)に接続しうるのか。「対話理論」と社会科の本質との関わりについて研究を進める。 第3に、「授業構成ストラテジー」の析出と体系化である。教師がワークショップ型授業に取り組むときの実践と思考のプロセスについてさらにインタビューを通して事例を収集し分析する。特に、教師の思考における「コンピテンシー」と「コンテンツ(内容)」の関連について焦点をあてる。 第4に、学校調査と研究成果の発表・まとめである。学校調査では、授業参観と研究協議だけではなく、教師への聞き取りも組み込む。富山市立堀川小学校や奈良女子大附属小を予定している。前述の事例収集の一環とする。研究成果については、日本社会科教育学会(宮城教育大学、11月)と全国社会科教育学会(広島大学、10月)で発表を行う。27年度末に、本研究の全体をまとめる報告書を作成し、研究報告会を山形大学で開催する。上條晴夫氏(東北福祉大学)をコメンテーターとして招請する。
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Causes of Carryover |
26年度は、ワークショップ型の単元開発を、「大江戸ビジネスプラン選手権」のひとつにしぼり、それに取り組んだ3人の教師の語りをインタビューで収集することに重点をおいた。「授業構成ストラテジー」を析出する新たな方法の試みである。そのため、単元の共同開発より、各々の教師の独自の実践の展開を記録することを重視した。この結果、既設のビデオカメラによるシステムで間に合い、WEB上での授業を共同検討するためのビデオ購入の必要が26年度中は生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究は、単元開発と同時に、教師の授業構成ストラテジーという教師の思考に焦点をあてている。開発したワークショップ型社会科の授業とそれを実践した教師の語り(ナラティヴ)をセットにして扱う必要が、26年度に明らかになった。27年度は、Wifi機能を有するビデオをカメラを含め、実践の事実と教師の語りを共有して相互検討をすすめる体制を整える。
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Research Products
(5 results)