2013 Fiscal Year Research-status Report
算数障がいを抱える聴覚障がい児の基礎算術運用力の向上を支援するAHSの構築
Project/Area Number |
25381326
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
松永 信介 東京工科大学, メディア学部, 准教授 (60318871)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 竹俊 東京工科大学, 教養学環, 教授 (10386766)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 算数障がい / 聴覚障がい / 基礎算術 / 特別支援教育 / 学習者特性 / 文章題 / 学習支援システム / AHS |
Research Abstract |
本研究は、近年の調査でその存在が認識されるようになってきた、算数障がいを抱える聴覚障がい児童に対する学習支援であり、日常文脈における基礎算術運用力を向上するための学習者特性適応型のeラーニングシステムの構築を目指すものである。 平成25年度に掲げた研究目的は大きく三つあった。 第一は、対象児童の基礎的な算術力や語彙力、読解のレベル、さらには障がいの特性やその重度に関する実態調査である。これらについては、研究協力先の児童への事前調査と担任者へのインタビュー結果をもとに類型化を行った。また、数社の教科書の算数文章題を調査し、その傾向ならびに頻出語彙や表現について分析した。 第二は、プロトタイプ教材の開発と、注視点やその軌跡を解析するアイトラッカー(視線追尾システム)などの指導援用機器の試験運用である。前者の教材については、「マスショナリー」という算数の文章題を扱う主教材と、それと連動して機能する「ピクショナリー」という語彙支援の副教材の開発を行い、東京都内のろう学校の授業にて実践使用した。小学部低学年の児童が対象であったため機器の操作に最初は戸惑う場面があったが、問題文中のわからない単語を自らピクショナリーを通じて確認し問題を解くという、本研究のねらい通りの学びが実践されていた。一方,後者のアイトラッカーに関しては、児童への実施には至らなかったが、プロトタイプ教材を用いての試用実験を教材開発メンバーで行い、視点の動きのみならず、どの箇所にどのくらいの時間注視しているかなどの解析シミュレーションを実施した。 第三は、AHSを機能させるための学習者特性の因子の選定とそれに基づく学習者モデルの形成である。AHSに関しては仕様上の検討を行い、また学習者特性に関しては算術力や語彙力を加味した困難の類型パターンを一つの因子として組み入れることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画は、「コース設計」「プロトタイプ教材の開発・実施」「AHSの組み込み」に大別される。 最初の「コース設計」に関しては、単元として足し算・引き算・掛け算の各文章題を取り上げ、教材の核となる「マスショナリー」(文章題の主教材)と「ピクショナリー」(語彙支援の副教材)の連携の仕様を確定した。また、各レッスンは例題パートと問題パートで展開する形式とし、各単元とも必ずしも桁数によらず、難易度による段階的な問題提示を行う設計とした。研究協力先の要望・助言を取り入れたため、予定していた仕様とは若干異なるが、目標は十分に達成されたと考える。 次の「プロトタイプ教材の開発・実施」に関しては、問題文分析により3文構成を採用し、事前調査で抽出した頻出語彙・表現を用いた教材開発を行った。また、聴覚障がいがゆえの読解の困難に配慮し、文章は分かち書きの形式とした。授業実践を通じて多くの児童の問題処理能力が高まったことが確認され、本教材開発への指針ができ、これについても概ね目標は達成されたといえる。ただし、アイトラッカーの児童への試用は未了となっている。これは、問題文分析にやや時間がかかったことと、電子黒板で用いる一斉授業用の教材を追加で開発したことに起因する。しかし、これに関しては、すでにアイトラッカーに教材を組込み、解析シミュレーションまで済ませており、あとは研究協力先とのスケジュール調整によりすぐに実施できる状態にあるため、平成26年度の研究計画に影響はない。 最後の「AHSの組み込み」に関しては、学習者自身に関わる特性と問題の難易度や語彙レベルに関わる特性を選別してシステムを構築する必要がある。このうち、前者の学習者の特性は当年度対象とした児童のプロファイルを簡易データベース化した。一方、後者の問題や語彙に関する特性は、暫定の段階分けまで完了しており、当初目標は達成している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究のねらいは、AHSの暫定運用と追加コンテンツの設計・開発であり、これらは交付申請時のスケジュール通りに進める。前者のAHSに関しては、研究協力先であるダンボおよびろう学校に新たに加わる児童の各種特性に関わる情報ををデータベースに追記した上で運用を開始する。後者のコンテンツに関しては、主教材である「マスショナリー」は、問題のバリエーションを増やすとともに、すでに組み込まれている“ことばの式”や“絵の式”などのヒント要素の提示の仕方にも複数のパターンを用意する。一方、連動する副教材の「ピクショナリー」は、機能語である助詞を中心に内容の拡充を行う。なお、初年度未了となったアイトラッカーの児童へ試用はこの平成26年度前半に行い、その後速やかに実運用へと移る。 最終の平成27年度は、当初の計画通り、評価と改善が主たる作業となる。教材や学習者特性因子の妥当性の検証を行い、全体システムを完成させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費の未消化分は、試用版の学習管理システムを自前で構築するようにしたことによる。また、旅費の未消化分は、当初予定していたUMAPでの調査がスケジュールの都合により実現できなかったことと、研究の成果発表が近隣の大学のみであったことによる。さらに、謝金の未消化分は、事前調査や実験のデータ処理、コンテンツのアーカイブ化などに初年度はそれほど手間がかからなかったためである。 物品費に関しては、システムの本格的な運用に向けてサーバPCを新規に購入することとしている。また、研究協力先にタッチパネル付きPCが不足していることから、それを複数台追加購入する。なお、現在仮運用の学習管理システムを、教員・保護者・児童が利用するポータルサイトとして実運用するため、サイトのデザインやインターフェースの設計を外部に委託する予定であり、これは初年度(平成25年度)からの繰り越し分と平成26年度分として計上している人件費・謝金でまかなう。旅費に関しては、初年度未了となった調査を平成26年度に繰り越し実施するとともに、追加の研究成果発表を行っていく。
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Research Products
(4 results)