2013 Fiscal Year Research-status Report
“不可逆的光反応”を自己組織化の推進力とする新規な機能性球状ミセルの創製
Project/Area Number |
25390003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
吉田 絵里 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263175)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己組織化 / 光重合 / リビングラジカル重合 / 両親媒性ブロック共重合体 / ランダムブロック共重合体 / ジャイアントベシクル / 形態制御 |
Research Abstract |
自然界に見られる多くの生体組織は、分子の自己組織化により形成されており、その構造形成は機能発現と密接に結びついている。この自己組織化による分子集合体の形成は、多くの最先端技術における材料設計に利用されている。本研究課題は、自己組織化の推進力としてはこれまであまり認識されてこなかった“不可逆的な光反応”を推進力に用いることで、その自己組織化によって形成される分子集合体に光反応特有の機能を付与することを通して、新規な材料設計法の構築を目的としている。 平成25年度は、“光重合”を推進力とする自己組織化法を確立した。光重合に誘発される自己組織化は、自己組織化が温度に左右されず、かつ集合体形成の間も自己組織化する分子が“生長する”という、従来にはない特徴をもつ高次構造体の形成法である。ポリメタクリル酸を親水部とし、メタクリル酸メチルとメタクリリル酸のランダム共重合体を疎水部とする両親媒性ランダムブロック共重合体について、光重合に誘発される自己組織化を検討した。光ラジカル重合の分子量制御剤が末端に結合したポリメタクリル酸を開始剤として、アルコール/水系混合溶媒中で、メタクリル酸メチルとメタクリル酸のランダム共重合を光ラジカル重合により行った結果、共重合の進行とともに、ブロック共重合体中の疎水部が自己組織化し、マイクロメートルサイズのジャイアントベシクルを形成することがわかった。また、ランダム共重合体中のモノマーユニット組成により、ミセルからジャイアントベシクルを経由して膜状に形態変化が起こることや、共重合の進行に伴うジャイアントベシクルの形態変化、その形成メカニズムの解明等、重要な研究成果を挙げることができた。これらの研究成果は、材料設計法の確立に留まらず、生物学的にも多くの知見を与えるものとして高く評価され、米国で開催された国際学会での招待講演につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の“光重合に誘発される自己組織化”で得られたマイクロメートルサイズのジャイアントベシクルは、その形成と構造の類似性から、ミトコンドリアなどの細胞小器官や赤血球などの細胞の人工モデルと見なされている。これまで多くの研究者によって報告されてきた、熱重合に誘発される自己組織化法ではナノメートルサイズのベシクルしか得られず、マイクロメートルサイズのジャイアントベシクルの形成は皆無であった。これに対し、本研究で確立した光重合による自己組織化法では、細胞の人工モデルであるマイクロメートルサイズのジャイアントベシクルが得られた。この形成理由の解明によって得られた、ジャイアントベシクルの形態制御や形成メカニズムに関する多くの研究成果は、生体内の自己組織化によって極めて規則性の高い高機能な生体組織の形成に関する生物学的な解明に、新たな知見を加えることに繋がった。このように、生物学的には解明しきれない生体内の構造形成や機能発現メカニズムを、合成高分子化学の見地からアプローチした研究はこれまでにはない。以上の観点から、本研究で得られた成果や知見が、新奇な材料設計法の開拓のみならず、生物学的にも重要な知見をもたらしたことは、当初の研究計画以上に進展しているといえる。 一方で、本研究成果を最先端の材料設計法としてさらに確立するためには、この自己組織化法で得られたジャイアントベシクルの機能化が重要なポイントになる。この機能化に関する研究を現在推進中であることから、現時点では研究の進捗状況を「概ね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果を踏まえて、今年度以降はジャイアントベシクルの機能化に関する研究を推進していくとともに、光分解反応や光転位反応、光オニウム塩形成等の不可逆的光反応を新たな推進力する自己組織化法を確立し、先端技術の開拓に繋がる材料設計法の構築を目指す。以下にその計画・方法の手順を示す。 1. 各光反応性の官能基をもつ高分子を設計し合成する。 2. 官能基の光反応によって自己組織化を誘発できる要件を明確化する。 3. 光反応に誘発された自己組織化によって形成される分子集合体の大きさや形態を評価する。 4. 分子集合体に付与された機能を化学反応により確認する。 光分解による自己組織化法の確立では、光分解性の官能基を側鎖に導入した高分子を、分子量の制御が可能な精密リビングラジカル重合法を用いて合成する。次に、官能基が光分解されると同時に高分子の自己組織化が誘発される要件を明確化する。さらに、この自己組織化によって形成される分子集合体の大きさや粒度分布、形態等を光散乱測定や電子顕微鏡観察により評価する。そして、光分解によって新たに形成される官能基の化学的反応性や物理的性質を利用して、分子集合体の材料としての機能を特徴づける。光転位反応や光オニウム塩形成を推進力とする自己組織化法の確立についても、同様の方法および手順により研究を進める。その際、それぞれの光反応の特徴をその自己組織化法に特徴付ける。例えば、光転位では、無触媒で進行する光クライゼン転位による自己組織化法の確立を計画している。一方、光オニウム塩形成による自己組織化では、光酸発生剤から生成する酸を高分子中の官能基がトラップすることによるオニウム塩形成を利用し、酸の脱着を利用した機能化を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の“光重合を推進力とする自己組織化法の確立”の研究推進に当たり、両親媒性ブロック共重合体の分子量制御と定量的な生成が可能な光リビングラジカル重合法を用いた。本研究では、この重合法により狭い分子量分布が得られることを確認した高分子を使用している。したがって、分子量分布の測定は、本研究課題を達成するための本質ではないが、得られた両親媒性ブロック共重合体の分子量分布の確認のために、高速液体クロマトグラフ装置で測定することが必要である。ところが、昨年の12月末に当研究室で保有している高速液体クロマトグラフ装置が故障し、緊急に業者に修理を依頼したが、修理に1ヶ月以上を要した上、その後もたびたび不具合が生じるなど、昨年度末までに修理が完了しなかった。この修理代として、交付決定額の一部を次年度に繰り越したことが、次年度使用額が生じた理由である。 現在、修理の目処がつき、2,3ヶ月以内には測定できる見通しが立っている。 理由にも述べた通り、両親媒性ブロック共重合体の分子量分布の測定は、本研究課題達成のための本質には関わらないので、測定の遅延は研究推進には何ら影響を及ぼさないが、完成度の高い材料設計法の確立のために、早急に両親媒性ブロック共重合体の分子量分布の測定を行う予定である。
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