2014 Fiscal Year Research-status Report
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25390009
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
平野 元久 法政大学, 理工学部, 教授 (50362174)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 摩擦 / 超潤滑 / トライボロジー / 原子論 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子スケール摩擦実験を計算機シミュレーションで再現するために,現実系に適用可能な多体原子間ポテンシャルを高精度に作成し,W面とSi面の原子スケール摩擦系において,摩擦転移が起きるのか否かを理論的に解明した.タングステンとシリコンの現実系で摩擦転移を調べるには,信頼性の高い原子間ポテンシャルが必要となる.単純な電子構造の金属については,2体力(中心力)の対ポテンシャルが有用であるが,遷移金属や半導体などの電子構造の材料については,原子間相互作用の局所環境を考慮に入れた3体ポテンシャルを材料に応じて作成する必要がある.これまでに材料系に応じていろいろな3体ポテンシャルが提案されてきた.タングステンとシリコンの摩擦系については,W-Si,Si,Wの原子間ポテンシャルが必要となる.摩擦の現実系ポテンシャルとして,(凝集エネルギー/配位数の対数)と平衡原子間距離,および配位数の対数と平衡原子間距離の線形関係性を利用してタングステンとシリコンの原子間ポテンシャルパラメータを決定した.実験では,探針-試料表面の近接状態で,カンチレバーを共振させて探針を試料表面に対して走査する測定方法により,探針走査時のカンチレバーの共振振動数変化を検出し,探針表面と試料表面間の摩擦力測定を可能にした.原子スケール摩擦では,清浄結晶表面間の格子整合性に依存して摩擦が増減することが理論的に予測される.この原子スケール摩擦異方性を精密に観測するために,試料ホルダ圧電モータによって回転し摩擦力を測定することにより,摩擦力の表面格子ミスフィット依存性,すなわち,原子スケール摩擦異方性の観測実験を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の摩擦系において,動摩擦におけるエネルギー散逸機構を解明することができた.エネルギー散逸に伴う原子運動のフーリエ解析などの信号解析を試み,摩擦原子論モデルの摩擦特性,エネルギー散逸過程における原子の振舞いの解明の糸口を見出すことができた.さらに,摩擦系の温度上昇下が摩擦と超潤滑に与える影響を調べるために, 摩擦原子論モデルをカノニカルアンサンブルの手法によって解析し,摩擦相図・摩擦特性に与える温度の効果を調べた.この結果,ミクロカノニカルのF-Kモデルの摩擦相図について,すべり速度と凝着エネルギーのパラメタ空間でつぶさに摩擦領域と超潤滑領域の境界を見極められるように,摩擦相図を改良することに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
特定のすべり速度では,凝着作用が小さいにも関わらず,散逸が生じて動摩擦が起こりやすくなる現象を見出し,スペクトラム解析などを活用して調べる.この際,超潤滑領域の相では,周期境界条件下の格子振動の固有振動数に近い振動数で調和振動に近い振動で,摩擦ゼロですべるかどうかを念頭に調べる.摩擦領域の2つの相と,超潤滑相のちがいについては,調和振動の基本周期で原子運動の軌跡を追跡する,ポアンカレマップ手法を用いて可視化することによって,これらの3相を分類する可能性を探求する.また,温度一定条件での原子論モデルの摩擦シミュレーションを可能にする,拡張系分子動力学を用いた,カノニカル原子論モデルの計算手法を開発する.
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Causes of Carryover |
平成26年度計画においては,超潤滑の高温下動力学安定性の解明を実施することを目的として進めていたところ,摩擦発生の新しい非線形効果発見の研究成果により研究が当初計画想定よりも進展した.この成果の考察については,26年度4月以降,3つの国際会議で成果を発表することができ,この研究討論を通じて引き続き課題解明の研究を加速する必要が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度においては,研究成果とりまとめのための,論文化に要する投稿料,打ち合わせ旅費等に使用する.
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