2013 Fiscal Year Research-status Report
金属ナノ結晶材料の格子収縮と結晶子+粒界層二相共存化の原因機構
Project/Area Number |
25390027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷本 久典 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70222122)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ナノ材料 / 金属物性 / 格子欠陥 / 表面・界面物性 |
Research Abstract |
平均結晶粒径が50nm 以下で高密度高純度の金ナノ結晶材料では、非平衡状態にも関わらずその格子定数が通常の金(多)結晶より収縮しており、またナノ結晶子が粘弾性の粒界“層”で囲まれた二相共存的組織で準安定化していることが我々のこれまでの研究で明らかになった。さらに、格子定数の収縮からは空孔型欠陥が関与していることや200K付近で粒界層状態が変化する可能性が示唆されている。そこで、これらの検証及び原因機構の解明に向けて、タッチパネル制御系を設備備品費にて更新して試料作製の効率化を図り安定した高品位試料作製を図るとともに、100~300KにおけるX線回折測定(高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーにて遂行)や電気抵抗測定、熱分析測定を行った。その結果、測定温度域において金ナノ結晶材料の格子定数は通常の多結晶状態から約0.05%収縮しており、またその温度変化率はほぼ一定で、特に粒界層状態の変化を示す兆候は見られなかった。一方、熱分析や電気抵抗測定からは、約200K以上ではそれよりも低温に比べて比熱が増大する傾向や電気抵抗の温度変化率が僅かに減少する変化が観測された。これら比熱や電気抵抗の温度変化は、約200K付近で粒界層状態に相転移的な変化が生じていること、さらに言えば空孔型欠陥が結晶子から粒界層に移動することで粒界層が粘弾性的になることや結晶子内での電気抵抗が低下することを表していることが推測される。これらはナノ構造を有する材料に特有な現象であることも考えられ、その普遍性の追求や原因機構の解明はナノ構造材料の熱的構造安定性を図る有用な指針を与えると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの力学特性(内部摩擦測定)から予想されていた約200Kでの粒界状態変化に対応して、低温での電気抵抗測定、熱分析においては200K付近で特徴的な変化が観測された。これは、我々がナノ結晶材料で見い出している特異力学特性にその特徴的な粒界状態及びその変化が反映されていることを示す有力な根拠となりうる実験結果であり、当初の平成25年度の研究計画に対して期待していた以上の成果といえる。 しかしその一方で、高品位なナノ結晶試料作製のための独自装置であるガスデポジション装置において、操作系のタッチパネルの更新のために試料作製に取り掛かる時期が予定より遅れてしまったが、操作性の向上により作製効率自身は向上した。但し、装置改修の影響で現時点では主に超微粒子の堆積速度の大きな試料の作製のとどまっており、堆積速度を遅くすることで粒界状態を安定化させた試料の作製及び評価が予定よりも遅れ気味となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は予想していた変化が見られた電気抵抗測定及び熱分析の測定をさらに進めて、粒界層の状態変化と空孔型欠陥の相関についてより知見を深めていく方針である。また、平成25年度に計画していた堆積速度が遅い試料の作製も試み、粒界状態の違いによる力学特性や組織(格子定数の収縮度や電気抵抗などの低温温度変化)についても検討を進める。 上記に加えて、粒界状態のさらなる調査及び制御を目指して以下のような実験も行う。ここで、アモルファス合金では初期電流密度~1GA/m2、時定数~3ミリ秒のパルス通電によりナノ結晶化が生じ、パルス電流印加で内在する数~数10nmの大きさ(原子数で1E6~1E8個)単位で存在する構造揺らぎで集団的振動が共鳴的に励起されるためと考えられている(Mizubayashi, Mater. Trans. 48 (2007) 1665)。平均結晶粒径が 30nmの金ナノ結晶材料では約1E6個の原子が含まれた1つの結晶子が乱雑構造の粒界層で囲まれた構造となっていることから、パルス通電により結晶子の集団的振動の励起及び粒界状態の変化が予想される。パルス通電前後で電気抵抗変化や組織変化、さらには内部摩擦測定や焼鈍実験を行い、結晶子や粒界層の状態がどのように変化するかを探る。
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