2014 Fiscal Year Research-status Report
種々のリン酸塩とその複合化物におけるプロトン伝導機構の統一的モデルの構築
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25390062
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
高橋 東之 茨城大学, 理工学研究科, 教授 (30202154)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オキソ酸塩 / プロトン伝導 / 相転移 / ガラス転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は高いプロトン伝導性を示すリン酸塩のうち、1次相転移により超プロトン伝導性を発現するオキソ酸塩について研究を行った。その中でも、低温まで立方晶の超プロトン伝導相が準安定相として存在するCs2(HSO4)(H2PO4)に着目した。 プロトン伝導度の測定から、超プロトン相のプロトン伝導度は室温付近までArrhenius的な温度変化を示すことが知られていたが、低温では過冷却液体の粘性係数にしばしば見られるVTF型の温度依存性を示すことを明らかにした。熱分析測定から伝導度が急激な低下を示す220Kに熱異常を見いだし、転移温度の昇温速度依存性からこれがガラス転移であることを初めて示した。 この点についてさらに詳細な情報を得るために、プロトン、リン、セシウム核のNMR測定を行い、プロトンはガラス転移で運動が凍結していることを確認した。また、リン酸の回転も同様にガラス転移で凍結しており、ガラス転移温度でリン酸の回転が凍結し、これに伴ってプロトン運動も凍結されることが明確に示された。さらにセシウム核NMRから、セシウムは8つの等価なオフセンター位置へ変位しており、これらの位置を巡る熱運動はガラス転移の影響を受けず、熱エネルギーに支配されていることを示した。 これらの結果から、1次相転移して超プロトン伝導を示すオキソ酸塩は対称性が高い構造への構造相転移が超プロトン伝導発現の本質ではなく、水素結合で連結したリン酸・硫酸が歪んだ立方格子中に束縛された過冷却規則液体状態にあることが超プロトン伝導発現の本質であることを明らかにした。規則液体におけるプロトン分布を明らかにするために、室温での中性子回折からMEM解析を行った。予備的測定であるが、重水素置換を行うことなく測定、解析は可能であると考えられ、OH結合位置を中心に格子全体にわたってプロトン分布が広がっている様子が観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1次相転移により超プロトン伝導を示すオキソ酸塩について、超プロトン伝導相はガラス転移をもち、格子中に束縛された過冷却規則液体と考えることができるということを低温プロトン伝導度、熱分析、NMR、XRD測定から初めて明らかにした。 室温から300℃程度までの中温で超プロトン伝導を示す化合物のうち、25年度はリン酸塩複合化物、26年度はオキソ酸塩という一見、全くメカニズムが異なっているように見える系について研究を行ってきたが、いずれの超プロトン伝導体についても低温でガラス転移をもち、VTF型の伝導度温度依存性という共通点があることを見いだした。これらの結果から、ガラス転移と低温におけるプロトン伝導度の振舞いを共通の指針とすることで、プロトン伝導機構の統一的モデル構築という目標に向けて大きく前進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかになったように、低温におけるガラス転移の存在が超プロトン伝導体を特徴付ける重要な因子と考えられる。他のリン酸塩複合化物やオキソ酸塩に対象を拡大して低温でのプロトン伝導度とガラス転移を系統的に調べ、超プロトン伝導に及ぼすガラス転移の効果を明らかにする。 さらに、系によってはプロトン伝導度が水蒸気分圧依存性を示す。これは系内の水分子がプロトン伝導機構に関与しており、この水分子の脱離がプロトン伝導度を支配していると考えられる。この水の挙動はプロトン伝導体を中温燃料電池用固体電解質に応用する際にきわめて重要となる。この点において、水分子の存在状態による安定性ならびにプロトン伝導への関与の違いを明らかにする。 このような水分子の状態が上述のガラス転移とどのように関係しているかについても検討する予定である。
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Causes of Carryover |
物品購入に際して、発注前の当初見込額と購入価格に若干の差額が生じたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品購入で適正に使用する。
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Research Products
(4 results)