2014 Fiscal Year Research-status Report
平坦なグラファイト表面における無磁場下でのランダウ準位の発現メカニズムの解明
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25390074
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
近藤 剛弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70373305)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ランダウ準位 / 走査トンネル分光 / グラファイト / 窒素ドープ / 表面界面物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,前年度の解析から明らかとなった窒素ドープグラファイト表面における無磁場下でのランダウ準位の出現に関して詳細な解析を行いました.この結果,窒素ドープ濃度が0.04 at%のときに約300か所でランダウ準位の出現を示す走査トンネル分光(STS)スペクトルが得られ,約1500か所でランダウ準位以外の特徴を持つスペクトル(炭素のpz軌道に起因すると考えられる非局在化した電子準位ピークを持つスペクトルやグラフェンに類似したV字型のスペクトルや清浄グラファイトで得られる放物線型スペクトル)が得られることがわかりました. ランダウ準位の特徴を持つSTSピークを解析した結果,2層で構成されるグラフェンシート表面に63~105テスラの磁場を垂直に印加した場合と同じ電子準位が形成されていることがわかりました.これらのピークが得られる表面箇所に明確な特徴はなく,例えば窒素ドープグラファイト試料表面の,原子レベルで非常に平坦な表面部分でも得られることが明らかとなりました.このことから得られるランダウ準位がグラフェン格子の歪に由来するものではないことがわかりました. STS解析を行った試料と同じイオン衝撃法を用い,様々な窒素濃度で窒素ドープグラファイト試料を調製し,窒素種に関してX線光電子分光(XPS)計測を行った結果,0.04at%の窒素濃度では約90%の窒素がグラファイト型窒素と呼ばれる炭素と3配位で結合した窒素種であることがわかりました.この窒素種はXPSやSTSの解析により正に帯電していることが示され,この正に帯電した窒素が0.04at%程度の濃度でランダムに分布していると,このチャージの影響を受けてオンサイトポテンシャルが変調した炭素が表面上でポテンシャルドメインを形成し,このポテンシャルドメインがランダウ準位をもたらす電子の運動を引き起こしている可能性があることが示されました.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回,無磁場下の窒素ドープグラファイト試料表面において,原子レベルで非常に平坦な表面部分であってもランダウ準位が形成していることが明らかとなったことなどにより,目的としている無磁場下でのランダウ準位の出現に関して,既存の理論により示されているグラフェン格子の歪が必ずしも必要ではないことがはっきりと実験結果から明らかになりました.つまり,歪以外にも起源があることが示されました.また,この歪とは別の起源として表面格子内に入った窒素のチャージの影響が示唆されました.すなわち炭素のオンサイトポテンシャルの変調によるホッピングの不均一性が疑似場を引き起こしている可能性が示されました.このような進展があったことによりおおむね順調に進展していると評価しました.
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Strategy for Future Research Activity |
窒素ドープグラファイト表面で観測された無磁場下でのランダウ準位の発現メカニズムとして,炭素と3配位で結合しているグラファイト型窒素の持つ正の電荷が起源となっている可能性が今年度の研究により示されました.すなわち炭素のオンサイトポテンシャルの変調によるホッピングの不均一性が疑似場を引き起こしている可能性が示されました.今後は引き続き解析を行うとともに,この提案するモデルで実際にどの程度ポテンシャルドメインが変化するかを密度汎関数法による解析などで明らかにし,擬磁場形成に妥当な起源であるかどうかの検証を行うとともに,これまで得られた実験結果と解析結果をまとめて論文として投稿する予定です.
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Causes of Carryover |
H26年度に予定していた解析内容に進展があり集中して解析を行ったため,当初H26年度に予定していた新たな解析に向けた実験準備への物品購入用の予算などに未使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H26年度末にこれまでの解析のめどが立ったため,H27年度は予定を繰り下げて研究計画に沿う形でかつ,研究の進展に応じ,最適な使用用途を判断して使用する予定である.
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