2014 Fiscal Year Research-status Report
酸素ラジカル密度計測のための電流加熱白金触媒プローブによるプラズマ表面処理の研究
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25390111
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
小野 茂 東京都市大学, 工学部, 客員教授 (80097170)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 酸素原子ラジカル / 触媒プローブ / 表面処理 / 白金 / プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
プラズマを用いたプラスチックの表面処理の最適化に寄与する研究である。酸素プラズマが盛んに用いられるが、この研究では処理において最も重要な酸素ラジカルに注目している。そこで、独自に開発した電流加熱白金触媒プローブによる酸素ラジカル密度の空間分布計測に取り組んでいる。データの解析法として新たに考案した供給電力掃引触媒プローブ法の検討も行った。 前年度に行った研究においていくつかの問題点があった。まず、これらを解決することに取り組むとともに、実験を繰り返し行っていく過程で気付いた白金触媒プローブ特性の新たな解析方法を提案するに至った。 なお、親水化処理の対象はポリイミドを選んで実験を行った。ポリイミドはフレキシブルプリント基板などに盛んに用いられ、集積度の高い電子回路においてはより微細な導体のパターンが要求される。元々撥水性のポリイミドに無電解めっきにより微細なパターンを作るには、ポリイミド表面の親水化が重要で、これまで多くの研究がされているので、結果の比較が容易であるためである。 表面波プラズマ装置の実験においては、触媒プローブにより酸素ラジカルの絶対数密度が測定できるので、ポリイミドの親水化処理において正味の酸素ラジカル照射量と親水化処理の結果としてのポリイミド表面の水接触角の関係が実験的に得られてきた。しかしながら、酸素ラジカル照射量の低い領域におけるデータは、極めて短時間に照射量が増加するので、より精密な結果を得るには、低密度酸素ラジカル条件での実験が必要である。そこで、真空設備の再調整により大気の混入量を低減させ、酸素ガス流量の極めて低い状態でプラズマを生成し、低密度酸素ラジカル状態を作り出し、より信頼性の高いデータを得た。 低気圧マイクロ波プラズマ装置の場合は、動作気圧範囲及び酸素ガス混合割合を広い範囲に亘って測定を行い酸素ラジカルの挙動をより詳細に確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表面波プラズマ装置を用いた研究においては、検討に必要な情報としてプラズマの電子温度、電子密度、電子エネルギー分布、気体温度及び酸素原子ラジカルの数密度のすべてを揃えることができた。特にポリイミドの親水化処理において大変に重要な酸素原子ラジカルの照射量と親水化処理の進展具合について、酸素ガス流量を非常に抑えた条件でも実験を行うことができ、酸素原子ラジカル照射量と親水化の関係を広範囲に亘って取得できた。 本研究で採用してきた触媒プローブによる酸素原子ラジカルの数密度の計測では、白金表面を酸素原子が活発に再結合を起こす900K程度に白金プローブを電流加熱を行う。この時の外部電源からの供給エネルギーを計測し、続いて酸素原子ラジカルが存在する場合には白金表面で再結合を起こすので、より少ない外部電源からの供給エネルギーで白金表面を900Kに維持できる。この供給エネルギーの差より、再結合によって供給されたエネルギーが把握できる。しかし、従来はこの操作は電源の供給エネルギーを手動で微調整することで行ってきた。 これに代わる客観的な新たな測定法を試みた。酸素ラジカルが無い状態での触媒プローブへの電源からの供給エネルギーと白金線温度を計測しグラフ化する。続いて、酸素原子ラジカルが存在する条件で同様の計測を行い、これら二つの特性を白金表面温度900Kの位置で比較をすると、再結合による供給エネルギーが定まる。これを、供給電力掃引触媒プローブ法と名付ける。この方法により従来より客観的に信頼できる測定値が得られるようになった。 低気圧マイクロ波プラズマ装置の場合にも上記の方法を採用することにより、広い圧力範囲、いくつかのガス混合比の条件の下で、酸素原子ラジカルの空間分布を測定することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
低気圧から大気圧までの各種プラズマについて、白金触媒プローブによって酸素原子ラジカルの空間分布計測とそれを利用した表面改質についての研究を行う課題であった。低気圧プラズマについてはほぼ当初の目的を達したので、今後は主に大気圧プラズマを中心に研究を進める。 大気圧プラズマとしては、大気圧マイクロ波プラズマ源と誘電体バリア放電プラズマを取り上げる。大気圧マイクロ波プラズマ源を用いた研究においては、生成プラズマのプラズマパラメータの把握、供給電力掃引触媒プローブ法による酸素原子ラジカルの空間分布計測、このプラズマを用いたポリイミドの親水化処理実験などを通して、酸素原子ラジカルと親水化処理の関係性を解明する。 誘電体バリア放電プラズマを用いた研究においては、プラズマ下流部における触媒プローブ特性の取得とオゾンが生成された場合の影響を解明する。これに加えて、プラズマに晒された金属表面でのオゾンの解離現象を解明するために、一つの誘電体バリア放電の直後にもう一つの誘電体バリア放電を設置して、その金属電極の温度変化を観測することにより、プラズマに晒された電極表面でのオゾンの解離現象を解明する。上流部の誘電体バリア放電である程度のオゾンが生成されるので、下流部の誘電体バリア放電では高濃度オゾン条件下での電極表面での現象が観測できる予想である。 以上の研究を通して、各種プラズマ内で生成される酸素原子ラジカルの挙動を把握するとともに、オゾンを含めての酸素原子ラジカルの固体表面での振る舞いをできるだけ解明していく。
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Causes of Carryover |
触媒プローブのデータの解析のために、計画の当初にはプローブに到達する高温ガス流の把握が必要と考え、サーマル式流量計の購入を計画していた。研究の進展に伴い考案された供給電力掃引触媒プローブ法を採用することによって、高温ガス流からのエネルギー供給を直接取り扱うことなく、酸素原子ラジカル数密度を決定することができるようになったので、サーマル式流量計の購入を取りやめ、供給電力掃引触媒プローブ法のためのプログラマブル電源を購入したが、差額が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
多くの研究成果があがったので、国際会議などにおいて順次発表を行う。最近の円安の状況もあり、会議の参加費及び旅費に予想以上の費用が必要となったので、当初の計画より多くの額を旅費やその他の支出に当てたい。
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