2014 Fiscal Year Research-status Report
粒子線照射での物理過程から化学過程への移行中の物理現象解明のための計算コード開発
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25390131
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
森林 健悟 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (70354975)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 重粒子線照射 / 二次電子 / 電場 / 動径線量 / 重粒子線がん治療 / MDコード |
Outline of Annual Research Achievements |
重粒子線によるがん治療は高い治療効果を持つことが知られおり、その理由の一つはクラスターDNA損傷を作るからと考えられている。しかしながら、クラスターDNA損傷の生成機構は分かっていない。この機構が分かれば、より高い治療効果をもつがん治療の実施につながるので、シミュレーションで陽子線と炭素線でのクラスターDNA損傷の生成機構を調べる研究を行っている。この機構解明に必要な重粒子線照射による物理過程(照射ごと数fs以内に起きる現象)と化学過程(数ps以上で起きる現象)の機構はおおよそのことはわかっている。しかしながら、物理過程から化学過程に移行する途中はほとんど研究されておらず、そのとき起こる物理現象がよくわかっていない。本年度は、この解明に向けて 1. 重粒子線照射で生成する水分子イオンの電場による水分子、水分子イオンの運動を計算するMDコード開発に成功した。物理過程から化学過程に移行するとき、標的分子の運動を解析する必要があり、本年度開発したMD コードは、その解析に役立つことが期待できる。このコードを用いて照射後100 fs程度で重粒子線照射で生成した分子イオンが動きだす可能性があることを明らかにした。 2. 重粒子線の動径線量シミュレーションを行い、その結果から新しい動径線量分布の経験式を作成した。動径線量は重粒子線照射により標的分子に付与するエネルギーの空間分布を表すもので、標的分子の運動の解析に役に立つと考えられる。本研究では、世界で最も現実に近いモデルを用いて高精度に動径線量をシミュレーションすることに成功し、新しい見解を示すことができた。さらに、我々の作成した動径線量の経験式はシミュレーションの結果を使いやすくしたものであり、この経験式はクラスターDNA損傷の生成過程の解明、重粒子線がん治療の高度化につながることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コード、モデルの開発は予定通り、順調に進んでいる。さらに、成果は、国内、国外の学会で発表し、良い評価を得た。また、原子衝突学会の学会誌に解説を執筆し、成果を国内に広く発信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
該当年度では、二次電子の放出角度の実験データ、分子の振動及び回転励起、弾性散乱をシミュレーションコードに取り入れる。現状は、照射後、100フェムト秒までしか取り扱っていないが、今後は、1 ピコ秒まで取り扱い、さらに、電離電子、標的分子の両方の運動を同時に取り扱い、物理過程から化学過程への移行中の物理現象のさらなる解明を目指す。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更により、当初想定していた原子力科学研究所への出張を平成27年度に延期したため次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
延期した原子力科学研究所への出張旅費として使用する。
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Research Products
(5 results)