2014 Fiscal Year Research-status Report
ビッグデータ解析を応用した大型加速器ビーム制御・運転システムの開発
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25390138
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
佐藤 政則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (90353367)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 大規模加速器 / ビーム制御 / 加速器制御 / ビッグデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,粒子加速器を用いた研究テーマは,高エネルギー物理学実験を始めとして,基礎物質科学・ナノテクノロジー,及び生命科学など多岐にわたる。次世代の高度な利用実験のためには,超高輝度・高安定なビームの利用が必須であり,粒子加速器の性能が利用実験の成果を大きく左右することとなる。加速器の性能とは,粒子源・加速空洞・高周波源・電磁石及び電源など,個々の構成機器の性能・信頼性はもちろんのこと,ビーム運転の可用性から決定付けられる総合的な指標である。特に,SuperKEKBやILCのような大型最先端加速器においては,膨大な量の制御パラメーターを常に最適化し,高品質なビーム運転を維持する必要がある。そこで,本研究に於いては,ビッグデータ解析を応用した大型加速器ビーム制御・運転システムの開発を行い,大規模加速器に於けるビームの高可用化を試みる。 平成25年度においては,当該研究課題の基盤技術となる,ビッグデータ解析システムを構築する計画である。加速器ビーム運転に関するソフトウェア技術は,計算機科学の進歩にともない大幅な進歩を遂げたと言えるが,近年のビーム運転システムは,ILCに代表される超大型加速器の運転にそのまま適用できるレベルとは言い難い。大規模加速器では,その制御対象点数の多さから,単純な機器故障に起因しない場合のビーム変動要因の理解及び抑制が困難であると予想される。これらの理由から,次世代大規模加速器の運転効率を最大限に高め,ひいては物理実験効率の最大化を図るためには,従来の水準を超える新しいビーム運転システムが不可欠である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高エネルギー加速器研究機構の電子陽電子入射器(以下,KEK入射器)は全長約600 mの線形加速器であり,複数の蓄積リングへビームを供給している。蓄積リング毎に要求されるビームパラメーター(エネルギー,電荷量,エミッタンス等)が大きく異なるため,最大ビーム繰り返し50 Hz(20ミリ秒間隔)において,特性の異なる電子・陽電子ビームを生成,加速,及び入射している。このように複雑な運転形態を採用しているため,50 Hz毎の機器情報及びビーム情報(ビーム軌道,エネルギー,エネルギー広がり等)を取りこぼし無く収集及び蓄積することが重要となる。また,蓄積データ点数を可能な限り増やすことにより,直感的には把握することが困難であるパラメーター間の相関関係を,ビッグデータ解析により明らかにすることが可能となる。このようなデータ解析を施すことにより,ショット毎のビーム不安定性および長期間に於けるパラメーター劣化の原因を迅速に特定することが可能になる。 本研究課題では,ビッグデータ解析を応用した加速器ビーム運転システムの構築が目的であるため,大容量ファイルサーバー及び高速計算機サーバーの導入が不可欠である。H25年度は,入射器の運転パラメーターを部分的に用いて,大量の機器情報及びビーム情報の相関解析を高速におこなうための高速計算サーバーの導入をおこなった。これに引き続き,H26年度には,大量の運転パラメーターを蓄積するための大規模ストレージの導入をおこなった。本システムを用いて,KEK入射器における約100台の非破壊型ビーム位置モニタのデータを,すべてのビームパルス(50 Hz)について同期計測し,なおかつこれらの情報を大規模ストレージに蓄積することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,ビッグデータ解析を基盤としたソフトウェアフレームワークを,加速器ビーム運転システムに実装するための開発を中心におこなう予定である。これらの開発及び実証実験は,すべてKEK入射器を用いた環境下においておこなう。昨年度までに目処をつけた大容量パラメーター蓄積技術を基盤として,可能な限りのビーム情報を蓄積する。ビーム情報は,主に全長600 mに渡りほぼ等間隔に設置されている約100台の非破壊型ビーム位置モニターを用いて得られる,ビームショット毎の水平方向ビーム位置,垂直方向ビーム位置,及び電荷量である。これらの情報に加えて,今年度中に設置を予定している,高速マイクロ波振幅位相検出器の情報を,ビームタイミングと完全同期計測し大規模ストレージに蓄積する。これらのマイクロ波測定情報は,ビーム情報と同等なショットIDと共に蓄積される。 これらの情報を,ビッグデータ解析の手法に基づいて解析し,ショット毎のビーム位置ジッター及びマイクロ波情報の相関を解析する。これにより,マイクロ波情報,ビーム位置,及びビーム電荷量との相関をショット毎に演算することが可能となる。本方式により,ビーム軌道及び電荷量を乱す要因となるマイクロ波源の特定を瞬時に行うことが可能となる。これらの解析に必要とされる演算アルゴリズムを構築し,ソフトウェアに実装する。また,これらの相関関係を基にしたビームフィードバック用ソフトウェアの構築もおこなう。 上記の開発項目を達成し,本システムが実ビーム運転に有効であることを示す。これにより,KEK入射器のデータ点数を用いて,次世代大規模加速器に同様のビーム運転制御システムを実装するために要求される計算機能力及びデータストレージ容量を予測することが可能となり,本研究課題の目標が達成される。
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Causes of Carryover |
H26年度予算は,主に大規模ストレージ購入費用に充当した。購入時期がメーカーの決算時期と重なったため,想定以上の出精値引きを受けることとなった。このため,当初購入予定額との齟齬が1円生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究成果を報告するための,学会出席経費として使用する。
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