2017 Fiscal Year Research-status Report
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25400068
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
楯 辰哉 東北大学, 理学研究科, 教授 (00317299)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 周期的ユニタリ推移作用素 / 局在化現象 / グローバーウォーク / フーリエウォーク / 単体複体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は,引き続き周期的ユニタリ推移作用素により定義される量子ウォークの局在化現象,ならびに単体複体上のグローバーウォークの定式化とその性質について研究した。局在化現象とは,ユニタリ推移作用素により定義される確率分布が時間無限大の極限下でも減衰しない点があることを言う。この現象はユニタリ推移作用素の固有値の存在と密接に関連する。小松尭氏(横浜国大)と共同で,周期的ユニタリ推移作用素のうち,特に定数コイン行列を持つ特殊なものについて,それが固有値を持つための条件をツイストされたコイン行列の条件として得ることができた。これを用いて,グローバー型,フーリエ型の量子ウォークが局在化を起こす十分条件を得ることができ,任意の次元においてグローバーウォークが局在を起こすこと,ならびに2次元フーリエウォークが局在を起こさないことを示した。また,Xin Luo 氏(湖南大学)と共同で,単体複体上のグローバーウォークの定式化に成功し,スペクトル論的な性質と単体複体の幾何学的な性質の関連について調べた。もともと単体複体上のグローバーウォークに関しては,松江等による先行研究があった。しかしそれは単体の向きを考慮しないものであったため,組み合わせ論的ラプラス作用素や単体複体の幾何学と直接結びつくものではなかった。Luo 氏との研究では,各次元において単体複体の組み合わせ論的性質から自然に定義される二つのグラフ上でグローバーウォークを定義した。定義する際,通常のシフト作用素を用いるのではなく,単体複体の結合係数によって捻ったシフト作用素を使用することにより,組み合わせ論的ラプラス作用素と直接関連を持つユニタリ推移作用素を構成することが出来た。これにより,実際にグローバーウォークの判別作用素のスペクトル論的な性質が,単体複体の向きづけ可能性という幾何学的な性質と密接に関連することもわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度,特殊な周期的ユニタリ推移作用素に対するスペクトル論的な性質,特に固有値の存在非存在に関する結果や,単体複体上のグローバーウォークの構成と,スペクトル論的な性質と幾何学的な性質の関連を調べ,一定の結果を得ることが出来,またいくつかの研究会での発表や論文執筆など,公表活動も適切に行なっている。実際,単体複体上のグローバーウォークに関する論文は既に出版が決まっているが,良い結果が得られたと思っている。単体複体上のグローバーウォークについては,もともと本研究課題の調書の段階では視野に入れていなかったのだが,松江等の論文のプレプリントが公表された後,この話題は早急に行う必要があると判断し,Xin Luo 氏による研究支援のもと,満足のいく結果を得ることが出来た。これは,状況を柔軟に判断した結果と思っており,満足している。 しかし,一方で調書の段階で考察の対象にしていた1次元量子ウォークの半古典極限に関しては,研究が遅れてしまっている。かなり計算結果は蓄積されてきているものの,決定的な結果が得られていないため,現在は保留としている。初期条件自身が半古典パラメータに依存するため,適切な初期条件を選ぶ必要があること,ならびに,半古典パラメータと離散時間パラメータの相関をどのように入れるかが,大きな難点となっている。これらを乗り越えるためのアイデアはあるのだが,膨大な計算が必要なため,その遂行には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り,1次元量子ウォークの半古典解析においてまだ結果が得られていない。研究期間の延長により,1次元量子ウォークの半古典解析に関して再度チャレンジすることが可能となった。この問題について極限分布の導出は困難が多いため,先ずは,困難さの原因の一つである,半古典パラメータと時間パラメータの相関の入れ方について主に考えたい。また小松氏との共同研究において,任意次元でグローバーウォークの固有関数の明示公式を得ている。固有関数の種々の漸近挙動を調べることは,純粋数学だけでなく数理物理上重要な問題であるため,これも視野に入れて残りの期間の研究を行いたい。
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Causes of Carryover |
昨年度使用することが出来なかった金額がほぼそのまま残った状況である。本研究課題期間の始まる際に所属機関の異動が生じたが,さらに研究期間中に職の異動(昇任)があった。昇任したことにより,所属機関における通常業務が激化し,当初予定したように出張等で研究費の使用が難しくなった。そのため昨年度そして本年度と未使用額が発生してしまった。
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Research Products
(3 results)