2014 Fiscal Year Research-status Report
自明結び目のアーク表示をほどくために必要な基本変形の回数の上界
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25400100
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
林 忠一郎 日本女子大学, 理学部, 教授 (20281321)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自明結び目 / レクタンギュラー表示 / グリッド表示 / マージ / エクスチェンジ / 上界 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究協力者として安藤龍郎氏(本学学術研究員)の協力を得て研究を進めている。Cromwellはどんな結び目もアーク表示を持つことを示した。3次元空間R3内の縦軸とそれを境界とする半平面(頁)をn枚用意する。結び目が各頁と1本のアークで交わるように配置されているとき、アーク表示されていると言う。アークの端点を頂点と呼ぶ。Dynnikovは、自明結び目のアーク表示は、アークの本数を変えないエクスチェンジ変形と本数を減らすマージ変形のみで、途中でアークを増やさずに、アークが2本の表示に変形できることを示した。何回以下の変形で済むか調べるのが研究目的である。そのために、アークがn本のときにマージする前に何回のエクスチェンジ変形が必要であるか、その上界を求めたい。結び目のアーク表示はアーク列と頂点列の2つのサイクリックな数列の組で表される。アークがn本の場合、軸上の頂点たちに上から順に1からnまで番号を振る。頁とその中のアークたちに軸の周りに現れる順に1からnまで番号を付ける。結び目に向きを付け、アークを1本選び、その上に始点を取る。そこから結び目に沿って向きの方向に一周し、現れた順にアーク(頂点)の番号を並べてアーク列(頂点列)を得る。アーク列(頂点列)内に続き番号(iとi+1(mod n))が並んでいるとき、アーク表示にマージ操作を適用できる。また、i番のアーク(頂点)とi+1番のそれをエクスチェンジすると、アーク列(頂点列)の番号iとi+1の位置が入れ替わるが、頂点列(アーク列)は変化しない。アーク列と頂点列を一般化して、1からnの番号を様々な順に並べた数列を考える。続き番号が並ばない数列全ての集合Wを考え、続き番号の位置を入れ替える操作で移り合う2つの数列は同値とする。Wは幾つかの同値類に分かれる。26年度は同値類に属する元の最大数をコンピューターを用いて求めた。n=7,8,9,10のときの最大数はそれぞれ15, 216,1363,16290であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度までにn=11まで計算を進めたかったが、まだできていない。メモリー不足になって途中で計算が止まってしまう。しかしながら、元の数が最大の同値類について、nが奇数の場合には或る特定の元が含まれると予想しており、その予想に基づいて計算すると、n=11の場合の最大数は131671である。n=13の場合は現在計算途中であり、6000000を超えることは分かっている。nが偶数の場合と奇数の場合ではかなり様子が異なることが分かってきた。すると、奇数の場合はn=7,9の場合しか計算ができておらず、偶数の場合はn=8,10の場合しか計算ができていないので、同値類の元の個数の最大数をnの式で表すなど、まだ細かい予想をたてるのが難しい状況である。したがって、研究が予定より大幅に遅れているわけではないけれども、思ったよりも状況は難解であるということから、達成度は「やや遅れている」と評価せざるを得ない。現在、コンピューターのメモリー不足の解消方法を模索中である。Linux (Ubuntu) とLisp の組み合わせでプログラミングしてきたが、最近になって、WindowsとMathematicaの組み合わせも見直している。DoやWhileなどの繰り返しの命令を使わないで、極力MapやApplyという関数を用いるようにすると、プログラムはかなり読みにくくなるが、その代わり、どうやら動作が速くなり、メモリーも節約されるようである。上記のn=13の特殊な場合の計算はその手法を用いている。現在、n=11の一般の場合の計算にこの手法を適用すべく、プログラムを改訂中である。成功すれば意外に早く結果が出るのではないかと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初平成27年度に行う予定だった研究は25年に完成した。そこで、平成25、26年度に行う予定だった研究を平成26、27年度に行う。平成27年度はコンピューターによる計算をもう少し進めてから、集めたデータに基づいて、マージできるようになるまでのエクスチェンジの最小回数の上界を求める。この上界をアークn本から3本まで足して、さらにマージの回数n-2を足せば、アーク表示をほどくための基本変形の回数の上界が得られる。例えば、すぐに思い付く大雑把な見積もりとして、アークn本の場合の最大の同値類の元の個数をf(n)と置くと、マージできるようになるまでのエクスチェンジの最小回数の上界がf(n)の2乗によって与えられる。これはアーク列の同値類の元の数の最大値と頂点列のそれの積である。エクスチェンジ変形を適用して行って、どちらかの列が同値類からはずれるとマージできるアーク表示が得られる。f(7)=15, f(8)=126, f(9)=1363, f(10)=16290であり、これらの2乗はヘンリヒとカウフマンの上界{n((n-1)!)^2}/2 より遥かに小さい。しかし、それでも良い評価とは言えず、発表しにくい。そこで、同値類の「直径」を考えたい。同値類の2つの元を繋ぐエクスチェンジ変形の最少回数の最大値を直径と呼ぶ。同値類の直径の上界を求められれば、もっと良い結果を得られそうに思う。しかし、現時点ではそのような議論を見出していない。何とか理屈が付かないか考えたい。また、自明結び目に限定してマージまでに必要なエクスチェンジの回数を調べていると、nが増えていったときの規則性が見えづらいので、自明結び目に限定しないで考えてみたい。その場合、n=8のときはエクスチェンジの回数の最大値は3であり、n=9のときはまだ計算中だが、9回必要な例が見つかった。
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Causes of Carryover |
2014年度の直接経費は6956円が未使用であるが、これを2014年度に使用するよりも、2015年度に計算の速いコンピューターを購入することに使用した方が、少しでも速いコンピューターを購入できるチャンスが増すと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2014年度の直接経費の残額は2015年度の直接経費と合わせて、計算速度の速いコンピューターの購入に用いる予定である。
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Research Products
(3 results)