2015 Fiscal Year Research-status Report
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25400143
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
飯塚 勝 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (20202830)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 確率過程 / 集団遺伝学 / 確率モデル / モラン・モデル / ライト=フィッシャー・モデル / 拡散近似 |
Outline of Annual Research Achievements |
「自然淘汰の相互作用を伴う多次元確率モデルの研究」の一環として、互助的相互作用による分子進化の機構を記述する集団遺伝学における複雑な確率モデルに関して以下の解析を行った。このモデル(15次元マルコフ連鎖として記述される)をより解析が容易な7次元マルコフ連鎖(間接的な相互作用を伴う互助的中立突然変異モデル)で近似し、究極的に到達するある境界点への平均待ち時間について以下の解析を行った。前年度まではこの境界から最も離れた点を初期値とする初期条件から出発した場合の解析を行ってきたが、今年度は中間の点にも初期分布をもつ場合を考察した。次いで、平均初期到達時間が個体数と他のパラメータ(たとえば、突然変異率や組換え率)の積に依存するか否かを考察した。前年度までは個体数を250に固定して、上記の境界点への初期到達時間の平均を7次元マルコフ連鎖のコンピュータ・シミュレーションを用いて定量的に解析してきた。今年度は個体数が2500の場合のコンピュータ・シミュレーションを行った。その結果、平均初期到達時間が、個体数と他のパラメータの積に依存しないことを明らかにした。さらに、前年度までは、遺伝子間の相対的位置を記述する組換え率に関しては、ある特定の値について解析を行ってきた。今年度はこれとは異なるいくつかの値に関する解析を行い、モデルの性質と汎用性を考察した。これらの結果を論文にまとめて学術雑誌に発表した。 「集団遺伝学におけるランダムな媒体中の確率過程の研究」に関しては、これまでにランダムな環境下でのモラン・モデルの極限過程である1次元拡散過程が、ランダムな環境下でのライト=フィッシャー・モデの極限過程である1次元拡散過程と同一である可能性を考察してきた。今年度はこれらの2つのモデルに遺伝的浮動という確率的効果を導入すると、それらの拡散近似は同一ではないことを示唆する結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要は、当該年度の研究計画として記載した内容がおおむね順調に進展していることを示している。 「自然淘汰の相互作用を伴う多次元確率モデルの研究」については、間接的な相互作用を伴う互助的中立突然変異モデルに関して、7次元マルコフ連鎖とそれを近似する7次元拡散モデルを用いて、ある境界点への初期到達時間に関する追加的解析を行った。すなわち、中間の点にも初期分布をもつ場合の解析、平均初期到達時間が個体数と他のパラメータの積に依存するか否かの考察、遺伝子間の相対的位置を記述するパラメータである組換え率の値の一般化を行った。前年度までの結果とこれらの結果を統合して学術論文を作成し公表した。 「集団遺伝学におけるランダムな媒体中の確率過程の研究」については、環境変動(確率的自然淘汰)を確率的要因とするモラン・モデルとライト=フィッシャー・モデルは同一の拡散過程を極限過程とすることが示唆されているが、これらのモデルに更なる確率的要因として遺伝的浮動を導入すると極限過程としての拡散過程は異なっていることを示唆する結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「自然淘汰の相互作用を伴う多次元確率モデルの研究」については、今年度までにその性質を明らかにした7次元マルコフ連鎖モデル(間接的な相互作用を伴う互助的中立突然変異モデル)は、より現実的な15次元マルコフ連鎖モデルの近似とみなすことができる。コンピュータ・シミュレーションを用いて両者を定量的に比較することにより、近似の妥当性と適用限界を明らかにする。さらに、本テーマに関連した未解決の問題として、遺伝子重複が互助的相互作用による分子進化の機構に及ぼす効果の研究がある。この問題を定式化すると、今年度までに研究を行ってきた確率過程と密接に関連した確率過程が得られる。本年度までに得られた知見を援用してこの問題の解析に取り組む。 「集団遺伝学におけるランダムな媒体中の確率過程の研究」については、ランダムな環境におけるモラン・モデルの拡散近似を詳細に検討する。次いで、ランダムな環境におけるライト=フィッシャー・モデルの拡散近似を詳細に検討する。両者の拡散近似を比較検討することにより、ランダムな媒質が存在するとモラン・モデルとライト=フィッシャー・モデルの拡散近似が一致しないことを証明する(ランダムな媒体が存在しない場合は2つのモデルの拡散近似は一致することが知られている)。すなわち、ランダムな環境の存在が2つのモデルの拡散近似(極限過程)に異なる影響を与えることを示す。より具体的には、上記の内容をまず、ランダムな媒質が2値マルコフ過程であるときに、その露わな表現を用いて考察する。最終的な目標としてはランダムな媒質が一様混合過程 (uniform mixing process) の場合を、2値マルコフ過程の場合の解析を参考にして考察する。
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Causes of Carryover |
2015年5月にアメリカ合衆国カリフォルニア州で開催された集団遺伝学と分子進化に関する国際研究集会で研究成果の発表を行う予定であったが、研究集会の規模が縮小され、発表予定の分化会が中止された。そのため、海外における研究成果の公表を取りやめた。 上記の理由で次年度使用額(約29万円)が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年4月から所属研究機関が九州歯科大学歯学部から福岡女子大学国際文理学部に変更になる。この移動に伴い、新たな所属機関で本研究を円滑、有効に実施するためにパーソナル・コンピュータを購入する(約15万円)。また、これまでの研究を発展、完成させるために国内の研究者と本課題に関する研究打合せを行う。そのために研究打合せ旅費(約14万円)が必要となる。
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