2014 Fiscal Year Research-status Report
多重スケールの生命現象を記述する偏微分方程式についての研究
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25400148
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
久保 明達 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 教授 (60170023)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 直樹 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 講師 (00549884)
梅沢 栄三 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 准教授 (50318359)
星野 弘喜 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 准教授 (80238740)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 腫瘍浸潤現象 / 多重スケール現象 / 数理モデル / 多重尺度 / 非線形発展方程式 / 時間大域解 / 解の挙動 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 研究代表者はスペイン・マドリッドで7月7-11日に行われた、10th AIMS International Conference on Dynamical Systems, Differential Equations and Applications に成果発表と情報収集のため海外出張を行った。成果発表では、Chaplain-Lolasモデルにおいて、第1,2方程式とも増殖項(Logistic term)がある場合について、またJose Ignacio Tello 氏と共同研究中の或る走化性方程式について成果を発表した。これらは、方法において重要な部分で共通したものを用いている。 2.研究代表者は、(目的1)の腫瘍浸潤を多重スケール現象(周辺組織との相互作用)とみなしたM.Chaplainらの空間1次元非局所腫瘍浸潤モデルについて、昨年度に続き適切な数学的枠組みを検討した。(目的2)この数理モデルでは境界値と非局所項の定義域の整合性が十分でない部分があり、それについて多重尺度関数(非局所項)を特異積分作用素に拡張可能で、しかも境界値との整合性があるように定義域の拡張を行い、これを達成した。 3.研究代表者は組織委員の一人として、研究分担者の星野とともに、年度末に東北大学で行われたMini-workshop on Models of Directional Movement and their Analysis(平成27年3月26-28日)に参加発表を行った。 4.研究代表者らは大学内の共有スペースで、数値意解析や情報収集のための環境の整備(コンピュータと図書の購入)し、研究室所属の学生の協力を得て、腫瘍浸潤モデルの様々なシミュレーションを実行し、また数理医学の最新の動向について調査した。また、研究分担者らと非局所腫瘍浸潤における進行波のシミュレーションについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.上記スペインでの国際学会において、腫瘍浸潤モデルと、J.I.Tello 氏と共同研究中の腫瘍増殖モデルと関連した走化性方程式の大域解の存在と挙動に関する成果を各々発表した。後者についてはその後も継続してTello氏と研究を進展させている。3月に招聘を受け一週間マドリッドにて共同研究を行った。一方、Chaplain-Lolasモデルにおいて、第1,2方程式とも増殖項がある場合について、後者の研究に関連して着想を得、解の存在と挙動を示すことに成功した。第一方程式のみに増殖項がある場合は、すでに証明がなされており結果を得ている。現在J.I.Tello氏との共同研究においてさらに問題設定を厳しくし、時間大域解の存在の証明がより困難ものを設定し遂行中であり、現段階で解の有界性が評価式によって示されている。 2.空間1次元非局所腫瘍浸潤モデルの提案者のM.Chaplain氏によれば、境界上における定義域と条件のギャップについては、境界条件に適当な周期条件を仮定すれば回避できるとの見解である。しかしそのような回避を行わず十分な数学的検討を行うことで、適切な数学研究の対象とすべく、非局所項においてさらに踏み込んだ検討を行い、研究実績の2.に従った定義を与えることで、こうした枠組みの中で数学解析を行う妥当性が保証され、本課題研究遂行の有力な方向性が得られたものと考える。 3.Mini-workshop on Models of Directional Movement and their Analysisにおいて、我々が扱う数理モデルの源流であると考えられる反応拡散方程式系と走性現象の数理的メカニズム、Keller-Segel 系やGierer-Meinhardt 系との関連性、現代的位置づけと理解をが得られ、本研究の将来的方向性を含めて、本課題研究の遂行において貴重な知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.Chaplain-Lolasモデルにおける増殖項が常にある場合の数学的扱いについては以上において一応の解決をみた。一方で、これまで本課題研究で扱ってきた解を、さらにロジスティック曲線にそって変化するようなものを見つけ、より一般的な形をした解の存在を示す。また、増殖項をより一般化したものについて、これまで行ってきた数学解析を適用して解の存在を示す。次にJ.I.Tello氏との共同研究において、増殖項の中の係数に適当な制限を加えることで、時間大域解の存在と漸近挙動が示されることが期待される。またそれ以外の場合については爆発解の存在も含めて検討する。 2.非線形項が非局所である数理モデルにおいても、第1,2方程式に増殖項が現れるため、上記1.における数学解析の達成は1次元非局所腫瘍浸潤モデルの数学解析において必要なプロセスであるといえる。次にこれまで行ってきたように、上記達成度の2.に対応した、モデルから帰着される非線形発展方程式を定義し、それについて時間大域解の存在と漸近挙動について明らかにする。この結果を、非局所腫瘍浸潤多重スケールモデルの数学解析に適用し、時間大域解の存在と漸近挙動を明らかにする。主たる困難点は、エネルギー不等式の導出である。 3.現在、多重スケール腫瘍浸潤現象を表わす数理モデルの数値シミュレーションは十分達せされているとは言えないが、1次元で特別な場合については可能性があり、星野、梅沢らとともにこれを達成する。困難点としては、これまで非局所項の扱いがネックになっているが、最近非局所項の定義域の上限と下限が対称になっているときにはうまく出来る場合があることに着目し、これを拡張し適用することにより目的の達成を目指す。 4.年度末にかけて、分担者・連携研究者とともに研究集会を企画し本研究課題における研究成果について討論し3年間の本課題研究の成果の総括をする。
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Causes of Carryover |
毎年行っている研究集会を開催するためと、共同研究のために海外渡航のため使用する予定だった予算の執行ができなかったことが主な理由である。年度末に例年行っている、関連する国内研究者を招聘して数理医学関連の研究集会を行う予定であったが、年度末に東北大学で行われたMini-workshop on Models of Directional Movement and their Analysisの日程が早期に決まらず、また変更になるなど、前もって日程の調整が困難であり、その為これを開催できなかった。また、J.I.Tello氏との共同研究を進めるため、スペインに渡航し一週間ほど滞在する予定であったが、先方からの招聘によりスペインに渡航することになったため、これについても予算を使用できなかった。以上により、本課題研究において科研費でまかなう予定で計上してあった上記予算の執行ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
数理医学関連の研究集会を予定通り年度末に行う他に、もう一回程度数理生物学の講演会を2015年の年内に開催することにより、さらに研究課題遂行のため効果的にかつ有効に使用することが出来るものと思われる。また本研究課題採択時の当初の予定では、本年度の各共同研究者に対する割り当ては、例年に比べてかなり制約を受けることになっていたが、繰越される予算によって、これが緩和されるため、共同研究者たちにも例年通り積極的な研究とそれに伴う予算の執行が可能となる旨、これを周知させ促進し、また予算の執行額がやや少ない共同研究者に対しては、より積極的な研究とこれに対する予算の執行をするよう促すことで、本課題研究最終年における予算のより有効な使用の可能性を活かしたい。またそれに関連して研究成果の総括をする必要から、連帯研究者との研究連絡も綿密に行えるよう、予算を計上したい。
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Research Products
(26 results)