2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25400156
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
長澤 壯之 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (70202223)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | メビウス・エネルギー / 分解定理 / メビウス不変性 / 変分公式 |
Research Abstract |
一般化された回転面の解析は、母線である平面曲線の解析に帰着される。回転面に対するウィルモア流やヘルフリッヒ流のような幾何学的発展方程式を解析する事が目的である。応用上重要でに数学的にも解析が困難になると思われるのは2次元曲面の場合である。これは、汎関数がスケーリングに関して不変であるからである。 今年度は、曲線の場合にスケーリング不変なメビウス・エネルギーを解析した。その代わり、曲線は平面曲線に限らずn次元空間内の閉曲線とした。3次元空間で考えれば結び目を考える事に相当する。結び目は、連続変形で移り合うものは結び目型が同じであるという。メビウス・エネルギーは、固定された結び目型の中で最も「均整」の取れた形は何かという微分幾何学的な問題を考察するために導入された。エネルギーが低いほど均整がとれているという考えで、結ばれ方がよく見えるように自己交叉を起こすと発散するように定義されている。すなわち、特異性を持つエネルギー密度の主値積分で定義される。そのため、変分公式の計算などでは解析的にはデリケートな扱いが必要とされた。 メビウス・エネルギーは、メビウス不変性を持つためそう呼ばれるようになった。本研究では、メビウス・エネルギーが、3つの部分に分解できる事を示した。第1の部分は正定値のエネルギーで、それによりメビウス・エネルギーの適切な定義域を特徴づけられる。第2の部分は、エネルギー密度に行列式構造があり、自己交叉以外からの特異性のキャンセレーションが見て取れる。第3の部分は絶対定数であり、変分問題としては無視できる。 この分解による3つの各部分のメビウス不変性は保たれており、微分幾何的にも興味深い。解析的には、この分解によってメビウス・エネルギーの変分公式とその評価が従来の計算法よりはるかに容易に求められるという利点がある。様々な関数空間上での第一・第二変分公式の評価も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究でいう幾何学的発展方程式は、幾何学的変分問題に付随する勾配流を意味する。方程式の解析は、方程式を確定するところから始める。第一変分公式の計算である。求められた変分公式の解析(準線形構造やスペクトル解析)により勾配流の存在や挙動の解析がなされる。こうした問題で数学的に困難であり興味深いものは、スケール不変性を持つ汎関数(エネルギー)に付随する勾配流である。スケール不変性を持つため自己相似的な解の存在が予想され、特異挙動を起こしうる。2次元曲面の場合のウィルモア汎関数、曲線の場合のメビウス・エネルギーである。 今年度は、メビウス・エネルギーの分解定理を見出し、これにより変分公式とその評価を見通しよく求められるようになった。変分公式は低階項まで含めて具体的に求められ、詳細な漸近解析のための足掛かりができたと考えられる。第一変分の計算からメビウス・エネルギーの勾配流は、準線形の3階放物型方程式である事が分かる。第二変分の計算と評価はその線形化作用素を解析した事に相当する。 今年度の成果として、印刷済み論文1編、投稿中論文2編、準備中論文2編がある。また、日本数学会他で5回の口頭発表を行った。 以上の事から、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
メビウス・エネルギーの分解定理は、変分公式の導出を容易にした。各部分はメビウス不変性という幾何学的な性質を崩していない。メビウス・エネルギーについては、今年度得られた変分公式の解析を進める。具体体には、第一変分公式の2乗可積分空間上の表現(以後 L2 表現 という)の導出である。 L2 表現の導出は、2乗可積分空間上の勾配流方程式の導出と同値である。L2 表現の主要部は分数冪ラプラス作用素で書ける事は知られている。これにより、勾配流の時間局所解の存在は容易に示される。勾配流が大域的に存在するか、有限時間で爆発を起こすかはを考察する。その為には、主要部以外の部分の構造を深く知る事が重要となる。 勾配流が大域的に存在するか、有限次元爆発を起こすかは、方程式の解析的な構造だけで決まるものではなく、初期結び目の位相的な性質が関与するものと思われる。初期結び目が素結び目であれば大域的に存在し、適当な合成結び目を初期値とすれば有限時間で爆発(結び目理論の用語ではプルタイト)を起こすと考えられる。しかし、初期結び目の位相的性質をどう解析的に取り組むのかは不透明で、具体的な方法は現時点では思いつかない。 分解によって得られた個々の部分をエネルギーと考えたときの勾配流と元のエネルギーの勾配流との関連も興味深い問題である。 同様の分解はメビウス・エネルギーに特有なものか否かも解析する。メビウス・エネルギー以外の結び目エネルギーについて、その定義域が分数冪ソボレフ空間で特徴づけられているものがある。分解定理が成り立つのであれば、その空間を定義するガリアルド・セミノルムに関連する量が現れるものと考えられる。
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Research Products
(6 results)