2013 Fiscal Year Research-status Report
構造化個体群ダイナミクスの数学的理論と感染症数理モデルへの応用
Project/Area Number |
25400194
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 寿 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (80282531)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 基本再生産数 / 感染症数理モデル / 構造化個体群ダイナミクス |
Research Abstract |
構造化個体群ダイナミクスの具体的応用として4つの研究をおこなった。研究(1)では、年齢構造を持つホスト個体群に対するSIS型感染症流行モデルにおいて、パラメータが時間周期的である場合に、周期的なエンデミック解が存在する閾値条件を示した。特にホスト個体群が人口学的に定常状態にあるなら、基本再生産数が1より大きいという侵入条件が、同時にエンデミック周期解の一意的存在条件になるという一般的原理を、構造化個体群モデルで初めて確認することができた。これは一般的原理としてより普遍的な構造化個体群における感染症流行モデルへと拡張されると考えられる。研究(2)においては、ホスト人口が多種からなるSIRモデルにおいて、エンデミックな定常状態における安定性問題を考えるために、最近非常に発達してきた年齢構造化モデルにおけるリアプノフ関数の方法を用いている。まだ限定された条件下ではあるが、非常に困難な年齢構造化SIRモデルの定常解の大域安定性問題を一歩前へ進めた意義がある。研究(3)においては、人口学で利用されてきたパリティ拡大モデルを細胞増殖のモデルへ利用することで、様々な待機時間分布を利用している従来の各種のモデルが、統一的に扱えることを示した。また有限ステップでおわる過渡状態では基本再生産数はゼロになってしまい利用できない。そこで過渡状態における再生産率を捉える指標として世代拡大率(GPR)を定義した。研究(4)においては、具体的な感染症流行抑止の方法として、学級閉鎖をとりあげ、年齢階級を考慮した流行モデルによって、学級閉鎖の効果とコストの関係を検討した。その結果、流行のピークにおける閉鎖施策は有効だが、ピークは感染率に強く依存しているため、普遍的なガイドラインを提起することは難しいことがわかった。また長期的な閉鎖は有効でも、致命率が高くないのであればコスト的に引き合わないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の基本的な目的は個体群ダイナミクスにおける基本再生産数概念をできるだけ普遍的な環境において定義した上で、その応用可能性を示すことである。その点で、研究(1)においては周期環境におけるエンデミック定常解の分岐パラメータとして基本再生産数が機能することを初めて示巣ことができた意義は大きい。また(2)においては、年齢構造をもつ多状態SIRモデルに関して定常解の大域安定性の条件を、やはり基本再生産数によって与えることに成功している。研究(3)においては、同概念が適用できない細胞増殖の過渡過程に関して、代替的な指標を提案して、従来のモデルの統一をはかり、基本再生産数との関係も検討した。研究(4)では具体的な政策的含意を導けるような感染症数理モデルの分析において、同概念がキーアイディアとして利用されている。以上の点から、課題の達成は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果を踏まえて、今後の研究の方向性として以下の諸点を考えている: (1) 確率的変動環境における基本再生産数の定義と年齢構造化モデルの開発 (2) 人口移動を考慮した多地域感染症数理モデルの開発 (3) 免疫の発生、減衰、活性化などを考慮した感染症数理モデルの開発 以上の研究においても、基本となるのは基本再生産数とそれによる閾値定理であり、可能な限り普遍的な感染症の発展・流行構造を定式化したうえで、その数理的構造を明らかにすることを目指す。また具体的な政策提言につながるような実務的モデルの開発への協力もおこなっていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題が3カ年計画であり、次年度は2年目にあたるため。 研究出張、研究セミナーにおける研究者招聘、研究図書購入、PC環境の整備更新等に使用の予定である。
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