2014 Fiscal Year Research-status Report
構造化個体群ダイナミクスの数学的理論と感染症数理モデルへの応用
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25400194
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 寿 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (80282531)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 感染症数理モデル / 基本再生産数 / HIV / ウィルスダイナミクス / 構造化個体群モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 体内におけるHIV-1ウィルス感染においては、従来、血中のfree virusがターゲット細胞にとりついて細胞内に侵入したうえで、細胞内で増殖したウィルスが再び血中に放出されるというサイクルによって理解されていたが、近年では感染細胞と感受性細胞の接触によっても感染が引き起こされることが指摘されてきている。そこで九州大学の岩見准教授の研究グループと共同で、細胞間接触感染も考慮したウィルスダイナミクスの数理モデルを構築したうえで、実験系によって基本パラメータを実測して、細胞間接触による感染の効率を推定した。その結果、細胞間直接接触による感染が、世代時間を短縮し、基本再生産数を増加させることを定量的に明らかにできた。 (2) HIV-1においては、エンデミック状態での感染者が有するウィルスロードにはおおきなばらつきがあることがわかっている。ウィルスロードは個体間の感染率に影響するから、体内におけるウィルスダイナミクスと個体群における流行は、個体の異質性を通じて相互作用していることになる。そこで、九州大学の岩見准教授の研究グループと共同で個体の異質性を考慮した個体群レヴェルにおける感染症流行モデルの開発をおこない、観測されたウィルスロードの分布から基本再生産数を推定する方法を開発した。さらに、実験研究者との共同により、HIV-1 M Vpuの有無によるパラメータ値の差を測定して、Vpuの存在がHIVパンデミックに大きく貢献していることを明らかにした。以上の研究は現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験研究者との共同によって、ウィルスダイナミクスを記述する数理モデルのパラメータを実測して、(1)細胞間接触感染の効率、(2)VpuのHIVパンデミックへの影響、という二つの課題に対して、定量的に答える方法を提起することができた。基本数理モデルは理論的には単純なものであるが、定量化に成功したことは実践的に非常におおきな意義があった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で使用した数理モデルは、まだ多くの仮定のもとで単純化されたものである。それはデータの利用可能性によるやむを得ない制限であるが、理論としては非常に不十分なものである。したがって、現状においてはデータ制約によって定量化は困難であっても、個体の異質性、体内ダイナミクスを考慮したより精密な人口レベルでの感染症数理モデルの理論的な開発を一方で進めておくべきであると考えられる。そこで、今後はモデルの理論的拡張と、定量化手法の普遍化を進めたい。
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Causes of Carryover |
講演会およびセミナー講師への謝金として想定した額が、予定通りには使用されなかった。これは実際の活動には影響はなく、講演者側の事情によるものであった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、物品、旅費については予定通り使用するととともに、繰り越された額については講師謝金あるいは資料整理など研究とりまとめ活動費用として積極的に使用していきたい。
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Research Products
(10 results)