2014 Fiscal Year Research-status Report
グラフの幾何構造が支配するグラフのスペクトル構造と酔歩の挙動の解析
Project/Area Number |
25400208
|
Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
樋口 雄介 昭和大学, 教養部, 講師 (20286842)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | グラフ理論 / スペクトル幾何 / ラプラシアン / 酔歩 / 状態密度函数 / 量子ウォーク |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフの幾何構造が,グラフ上の各種作用素のスペクトル構造や酔歩の挙動にどのような影響を及ぼしているのかを,明らかにしていくのが本研究の主題である.平成25年度までには,酔歩の量子版とされる「量子ウォーク」に関する研究として,横浜国立大学の今野紀雄氏,東北大学の瀬川悦生氏および小山高専の佐藤巌氏らと,有限グラフとその無限アーベル被覆グラフにおけるスペクトル写像定理と量子ウォークの長時間漸近挙動についての道具が得られていた.当該年度においては,それらの発展形として Ihara ゼータ函数の量子ウォークによる解釈,さらには,量子ウォークから得られる新たなゼータ函数とその特異点の解析などを前述のグループで得ることができた.さらには瀬川氏とは,量子ウォークで見られる “局在性” に対して,新たな特徴付けを行った.具体的には,局在が起らない1次元格子においてある種の摂動を加えると,Szegedy walkという量子ウォークに局在が生じること,さらに drifted random walk に起源をもつ Szegedy walk は,その長時間漸近挙動において従来見られなかったような分布が得られることが分かった.このことから,1次元といえども,drifted random walk をもう一度詳細に調べる方向性が得られ,実際局所的に “不純物” が入ったdrifted random walk のスペクトル解析を遂行中である. なお,当初の予定通り会場費などを補助して2014年8月に新潟県新潟総合テレビ "ゆめディア" にて研究集会「離散数学とその応用研究集会2014」を開催した.当該研究集会は,グラフ理論,離散・計算幾何学,組合せ論およびそれらの応用を中心とする離散数学の最新情報の発表のみならず研究交流を目的としたものであり,実際にグラフの幾何や酔歩の挙動に関する新たな知見が得られている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子ウォークにおける無限アーベル被覆グラフとその商グラフにおけるスペクトル写像定理に関してほぼ道具が揃ったことは,ある程度予想はついていたとはいえ,実際に完成したことはそれなりに評価できると信じている.ただし,これは到達点でなく,これらを有効に使うことで新たな幾何とスペクトルの関係を見いだしていかなければならない.その意味では,幾何的に摂動が与えられた1次元格子の上での新たな局在性および新たな長時間漸近分布の発見は,前述のスペクトル写像定理が有効に使われた具体例ともいえよう.また,この結果を通して,1次元での局所的に “不純物” が入ったdrifted random walk のスペクトル解析という新たな課題に辿りつけたことも,順調といえる所以である.ただ,それゆえに,計算機にかける時間が減っていることとなっている.予定では,理論面での壁にぶつかったときに,PCを用いた具体的な計算実験で新たな刺激を得る,としていたが,幸いにもまだ理論面でどうしても越えられない壁を避けて先に進めている.もしかしたらそれまでに得られた知見で壁を壊すこともできるかもしれないが,いずれにしてもそれらの壁と対峙しなければならない時が来るだろう.その時のためにも手持ちの非力なPCでの準備は行っているとはいえ,いささか計算科学への貢献という意味では多少遅れている感も否めない.それゆえ現在までの達成度という意味では,全体的には概ね順調に達成されていると判断するものである.
|
Strategy for Future Research Activity |
まず平成27年度は,平成26年度以前の研究を基に量子グラフの時間発展やスペクトル構造とグラフの幾何的性質との相関関係をより明白にすることを目標とする. 可換被覆構造を持つグラフに関して以前に得られた酔歩やラプラシアンの構造解析の道具が,量子ウォークの時間発展作用素のスペクトル構造もしくは極限分布に対しても有効に移植できたので,それらを用いて新たな性質を見出して行くとともに,改めて注目すべき部分が何であるかなどを明らかにしたい.これらはいわば酔歩と量子ウォークの類似性に注目したものであるが,一方では量子ウォークならではの独自性に関して深く切り込む道具を作成していくつもりである. そのためにもグラフ上の離散ラプラシアンなどの作用素のスペクトル集合の構成や状態密度函数の挙動などに,グラフの幾何がどのような影響を与えているのかをより詳細に解析していくが.まずは1次元での局所的に “不純物” が入ったdrifted random walk のスペクトルに対する詳細な解析を行うつもりである.もちろん従来に引き続き,解析接続したグリーン函数の挙動など,固有値のみならず共鳴状態(レゾナンス)の特徴付けなども進展させると同時に,いままでに未解決な双曲的無限グラフのスペクトルの決定やグラフに潜む曲率の炙り出しなどでの進展も図るつもりである.進展が速ければ速いほど,理論面での壁にぶつかることが予想されるが,その折には予備実験で準備しているものを基として,本格的計算機実験の遂行に方向転換する予定である. 総合的には,推進方策の基本は平成26年度以前と変わらず,まずは目的達成もしくはそれ以上の結果を引き出すために多様な分野の研究者との密なる交流を図る.やはり可能な限り各種の研究集会に参加・講演することで,新たな研究者と知り合う可能性を高め,新たなアイディアの取得や励起の可能性をより高めていくつもりである.
|
Causes of Carryover |
理論面での研究の推移が順調であり,それに伴って予備実験を含めた計算機実験に割く時間が減ってしまったため,計算機に関する予算の支出が遅れ気味になったこと,および,研究者本人もしくは訪問先の研究者の都合があわずに実施されなかった出張が数件あることなどが最大の理由と考えられる.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
理論構築がメインテーマの当該研究において,現在のところ計算機実験に頼らなくて済んでいることはある意味幸いであり,計算機関係の支出が遅れ気味であることは,研究自体の全体的な進捗状況に影響を与えているものではない.しかし,当初から抱えている問題の解決のため,およびこれら現れるだろう困難の壁を乗り越えるためにも,PCを用いた具体例の計算が必要なステージが必ずやってくる.理論的進歩が順調なうちは出来るだけ突き進み,壁が登場したときには,新たな知見を得るためにも高速な計算機を入手し,具体例のシミュレーションに従事するつもりである.なお,現在でも手持ちの非力な PC を含めたPCを用いた予備実験(数値解析のソフトウェアの選択を含んだプログラムの作成)は行っている.さらに多忙な研究者たちとの交流を深めるためにも,なるべく早めに互いのスケジュールを制御して,充分な研究打合せの時間を確保するつもりである.
|