2017 Fiscal Year Research-status Report
グラフの幾何構造が支配するグラフのスペクトル構造と酔歩の挙動の解析
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25400208
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
樋口 雄介 昭和大学, 教養部, 講師 (20286842)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 離散スペクトル幾何 / グラフ理論 / ラプラシアン / 酔歩 / 状態密度函数 / 量子ウォーク / 定常測度 / 共鳴状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフ上のダイナミクスである古典的酔歩や量子ウォークの挙動は,それぞれに附随するグラフ上の作用素,前者は離散ラプラス作用素,後者はユニタリ発展作用素,を解析することで多くの情報が引き出される.本研究のメインテーマは,それぞれのダイナミクスの挙動もしくは各種作用素のスペクトルと,グラフの持つ幾何的性質,とくに離散ゆえの組み合わせ構造との関係を明確にすることを目標としており,当該年度の研究実績の概要は以下の通りである. 瀬川悦生・吉江佑介両氏(東北大学)と,有限グラフの「入口」に一定量のエネルギー流を流し続けたときの「出口」からの流量および有限グラフ内部に滞在する量子ウォークflowの長時間漸近挙動を考え,組合せ的手法を併用した詳細な解析に成功した.当初はtoy model での数値計算で様子を確認しその後本格的な数値計算にとりかかる予定であったが,幸いにもより一般化されたケースにおける証明方針がメンバーとの議論から産出され,有限グラフ部分における “定常測度”の存在,および「入口と出口」の “応答問題” に対する結果が得られた. また従来から継続中の野村祐司氏(兵庫県立大学)と小栗栖修氏(元金沢大学)との離散ラプラシアンの共鳴状態の解明についても確実に進展しており,現在はより一般のグラフでの連続スペクトルの中に複数の埋蔵固有値を持つようなポテンシャルの構成を考慮中である.さらに瀬川悦生氏・Portugal氏(Brazil)・佐藤巌氏(小山高専)らとは,2-tessellable graph における staggered quantum walk およびその Hamilton type に対する spectral mapping theorem および局在状態の固有函数の特徴づけに成功しており,この結果は量子探索問題における何らかの発展に寄与することが期待されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
量子探索問題や量子応答問題に対するその基礎部分のモデル構築および理論的解析が進んだという瀬川吉江両氏らとの成果や,連続スペクトルの外部での固有値の存在や存在が維持されるポテンシャルの構成,およびその摂動による代数多様体の特徴付け,さらには連続スペクトル内部での埋蔵固有値の存在を保証するポテンシャルの構成という野村小栗栖両氏らとの成果,加えて,2-tessellable quantum walkのspectral mapping に関する瀬川Portugal両氏などとの成果などを考慮すると,理論面においては当初予想した道筋を越えたものもあり,よって順調に進展していると判断できる.一方で,計算機を用いた本格的実験,および応用面においては多少遅れていることは否めない.ここには双曲的無限グラフに対する計算機実装の困難の壁が非常に高いこと,さらには,これはある意味幸いなことでもあったが,当初かなりの計算機実験が必要と見込まれたテーマにおいて,思いの他アイディアが生じて理論的なアプローチが可能となり,結果として本格的計算機実験が不要になったことなどがある.また当該研究の応用面の貢献として, “mental Lexicon” のネットワーク解析を対象にした研究企画が立ち上っているが,当初設定されていた研究期間を鑑みるといささか遅れていることは否めない. よって全体的に判断するならば,理論面の発展は確実にあるものの,応用面の遅れを全面的に補完できるレベルとは言い難く,研究期間も延長せざるを得なかったことを考慮すると,やや遅れている,という結論が無難と思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,本来の研究期間を1年延長したことでもあり,平成29年度までの研究の総まとめを意識していくつもりである.もちろん,主題とするものは,量子ウォークや古典的酔歩を支配するグラフ上の作用素のスペクトル構造と,グラフの持つ幾何構造の関係をより明確にしていくことであるが,さらに現在立ち上がっている本研究の他分野への応用貢献,たとえば,Mental Lexicon の構造解析,などでも何らかの結果を導きたい. より具体的には,量子散乱応答問題として提起したモデルに対して存在が証明できた定常状態に対して,その内部有限グラフでの分布構造と幾何構造の関係や,エネルギーの入出力口の幾何構造の影響などを詳細に調べていくつもりである.また,従来のGrover walk は Grover coin と flip-flop shift で生成されているが,そのshift 作用素を,グラフに内在するサイクル,より具体的対象としては 2-factor, をある種の座標を見做したときに導入される “moving shift” に替えたときのスペクトル解析やダイナミクスの変化を捉えることも計画している.もちろん,staggered quantum walk とそのHamilton type と量子探索との絡みや,離散ラプラス作用素のグリーン函数や共鳴状態・状態密度函数,さらには,従来からの永遠の課題でもある双曲的無限グラフのスペクトル構造やグラフに潜む曲率の定式化なども意識しつづけている. 総合的には,推進方策の基本は平成29年度以前と同様,目的達成さらにはそれ以上の結果を引き出すべく,可能な限り各種の研究集会に参加・講演,さらには研究者を招聘した小さな研究会や勉強会を開催して,多様な分野の研究者との密なる交流を図り,新たなアイディアの取得や励起の可能性をより高めるつもりである.
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Causes of Carryover |
今年度の使用額もほぼ年度予算額となっているので,次年度使用額として生じたものは平成26年度までの未使用額となっている.これは過年度までに繰越使用額が生じた最大の理由と同じく,理論面での研究の推移が多岐に渡り,かつ順調であるためで,それに伴って予備実験を含めた計算機実験に割く時間が減ってしまったことによる.今年度は計算機実験にかなり頼ると想定された問題に取り組んでいたが,想定外にも理論面での解決および一般化が実現し,ゆえに計算機実験に用意した時間をそちらに割かれてしまったのとともに,計算機用の予算もほぼ未消化となった.以上がほぼ平成29年度に繰越した金額がそのまま次年度使用額になった概略である. 上述のように計算機関係の支出が遅れ気味ではあるものの,それはテーマ周辺の各種課題に対する理論構築の面が高速な計算機実験に頼ることなく着実に進展していることの表れであり,支出の遅れが研究自体の総合的な進捗状況の大幅な遅れを意味するものではない.とはいえ研究期間を1年延長したことも鑑みて,これまでの研究のまとめ,および,多少なりとも応用面への貢献を実現するために,多少の使用費目の変更はあれ研究者の招聘や訪問する旅費や計算機環境の充実など,最終年度として効率的に予算を使用し研究を着実に進展させるつもりである.
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