2013 Fiscal Year Research-status Report
近赤外ファブリ・ペロー分光器の開発と大質量星のスペクトル同定観測
Project/Area Number |
25400226
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 英則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (80361567)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 大質量星 / スタークラスター / 近赤外線 / 分光撮像観測 / 分光器 / ファブリ・ペロー |
Research Abstract |
平成25年度は研究実施計画に記載したファブリ・ペロー分光器作成のための基礎設計を行った。分光素子であるエタロンが近赤外分光に最適化された条件(波長域、使用温度)を満たすための素材・反射面成膜条件・ウェッジ角などの設計である。またエタロンを駆動するための機械的検討(支持機構、駆動素子、ギャップ測定・制御機構)も行った。このうち、光学素子の基本設計は終了している。しかしそれを保持・駆動するための機構について、複数のメーカー、機種について仕様を満たす性能を有するかどうかなどを検討したが、現在迄に技術的な問題もあり、最終的な製作に至っていない。現在この技術課題に関して素材や製造レベルでの再検討を行っている。 もう一つの研究計画の一つである大質量星探索サーベイは引き続き遂行している。国内での観測として県立ぐんま天文台・150cm望遠鏡搭載の近赤外線カメラを用いた、主に北天での大質量星クラスターをターゲットとしたサーベイ観測を行った。前年度までに新たに内挿した[CIII], Brγ輝線のピックアップを目的とした近赤外狭帯域バンドフィルターも用いている。観測条件(天候など)や観測装置の不具合などもあり、新発見となるデータの取得はできていないが、サイトの観測時間のフレキシビリティを活かして今後も観測を継続する予定である。 さらにチリ・アタカマにある東京大学mini-TAO望遠鏡近赤外線カメラ(ANIR)を用いた観測も行った。これまでに大マゼラン雲内の大質量星クラスターサーベイを行ってきた。近赤外狭帯域2バンドと広帯域Ksバンドの3色を用いることで、進化段階の異なる複数領域のクラスターについて、星の構成成分の違いを明らかにすることに成功した。この結果については現在論文としてまとめている。さらに25年度は、金属量が少ない小マゼラン雲内の星団の観測も行っており、これについては現在解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度の研究計画のうち、近赤外ファブリ・ペロー分光器実用機の開発が遅れている。光学素子(エタロン)の設計はほぼ終了しているが、これを実装する駆動系の設計・製作が終了していない。エタロンを低温度環境で必要な駆動距離を必要な角度精度をもって面制御するための駆動素子について、検討を継続している。素子としてはピエゾ素子が候補であるが、低温での駆動距離に関して仕様値を満たすものが市販されていない。特に搭載スペースが限られているため、小型・小消費電力の素子が必要となる。現在国内外の複数メーカーで候補となる素子の開発が進められており、それを用いることを考えている。 ファブリ・ペロー分光では次数の異なる櫛形の透過光が波長方向に連なる透過特性を持つが、このうち必要な次数のみを選択的に透過させる次数選択型フィルター(オーダーソーター)も必要となる。これには非常に鋭く、波長幅の小さい矩形の透過特性が必要となるが、これを達成するための多層膜積層が技術的に難しく、現在条件の最適化を行っている。 大質量星クラスターの観測については、チリ・チャナントール山頂のmini-TAO望遠鏡近赤外線カメラを用いて、これまでと異なる物理環境(低金属量)での観測データが得られた。これと過去に得られた銀河系内および系外(大マゼラン雲)の観測結果と比較することで、研究目的である大質量星クラスターの誕生と進化についての考察に一助を与える結果になると期待される。しかしながら、観測装置の不具合や天候の不順などにより、十分なデータ(特に観測領域の広さ)が得られているとは言えず、今後更なるデータ取得が望まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
ファブリ・ペロー分光器の駆動系の開発において、ピエゾ素子の素材レベル、積層などの製造レベルからの検討を行っている。いくつかのメーカーで新たな素子の製作が進んでおり、平成26年度内早期には試作品が出来る予定である。平成26年度前半はこの素子について性能評価を行い、実用に向けての詳細設計を進める。これと平行して、電磁石を用いた駆動素子の検討も始めている。磁力を用いた駆動系にはヒステリシスなどの問題もあるが、これは再現性が波長走査の位置精度の許容範囲内におさまっていれば使用可能である。これまでの開発経験からこれはクリアできると考えている。 光学素子については、メインとなるエタロンについては基本設計が終了しており、駆動系の機械的形状が決まり次第、製作に移る。次数選択型光学素子(オーダーソーター)は、現在成膜条件の検討を行っており、現実的な値で製作に進むことにする。 観測については、昨年度に得られたデータの解析を進め、過去の観測結果と比較することで、新たな知見が得られると期待される。さらに統計的なデータの積算、系統的な比較を行うためのさらなるデータの取得を行う。例年行われているmimi-TAO望遠鏡の平成26年度春季観測ランは諸事情により行われないことになったが、秋季観測ランを行うべく調整している。この観測では昨年度得られなかった領域の観測を行う他、データの質を上げるため昨年度観測した領域の追加観測も行う予定である。さらに国内での観測も継続する。特に北天での大質量星探索サーベイにより、これまで見つかっていないウォルフ・ライエ星をメインとした大質量星の発見を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた分光器開発のための分光系駆動素子に技術的な問題が生じ、必要な性能が得られない可能性が高いと判断したため素子の購入を見送った。また、次数選択型狭帯域フィルターの成膜条件の最終決定がメーカーから提示されなかったために、製作を延期している。これらについては、新たな素子の開発や成膜条件の洗い出しに目処がついたために、早期の製作を行うことにしている。 観測のためにチリへの渡航を予定していたが、観測部隊の人員組織選定や研究代表者の他の開発担当作業により本人のチリへの渡航を見送ることとなったため、当初計上していた旅費の使用しなかった。次年度以降に観測のために渡航を予定しているため、次年度への繰り越しを選択した。 物品費として、現在設計を行っている分光器開発に伴う駆動素子およびドライバー等の購入を平成26年度早期に行う。また実際の分光器製作のための機械工作費に使用する。光学素子として、エタロンおよびオーダーソーターの購入を行う。これらは平成26年度前半までに行い、年度後半には組立て・調整、性能評価を行う予定である。 旅費としては、平成26年度は観測のためにチリへの渡航を計画している。さらに分光器製作のため共同研究者やメーカーとの議論・打ち合わせを行う予定である。また、情報収集のため国内外の研究会等へ参加するための旅費にも充当する。 その他、観測データ解析のための計算機および実験・測定機器などの購入も計画している。
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Research Products
(3 results)