2014 Fiscal Year Research-status Report
近赤外ファブリ・ペロー分光器の開発と大質量星のスペクトル同定観測
Project/Area Number |
25400226
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 英則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (80361567)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大質量星 / クラスター / 近赤外線 / 撮像観測 / 分光観測 / ファブリ・ペロー分光器 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は研究実施計画に記載した内容のうち、開発の部分については分光素子の駆動系の検討・設計を主に行った。低温・真空で用いられるため、駆動には非接触型の駆動素子を用いる必要がある。これには別の共同研究で行っているボイスコイルモーター(VCM)の利用を進めている。試験用VCMは入手済みで単体での性能・特性評価試験の結果、分光素子駆動系として利用可能であることを確認した。さらにプトロタイプのVCMの設計が終了し、現在製作を行っている。動作試験を経て、分光器実機に最適化した駆動機構の製作に移る予定である。 研究計画の一つである大質量星探索サーベイ観測については、平成26年度はチリ・チャナントール山頂の東京大学アタカマ天文台miniTAO望遠鏡ならびに周辺環境整備不良、天候等の状況により、計画していた観測を実施することができなかった。しかしながら前年度までに取得したデータが当初の研究目的を補完するものとなっており、その解析を中心に進めた。観測対象は近傍矮小銀河である大小マゼラン銀河内の活発な星形成領域、データは近赤外3バンド撮像観測データで、大質量星クラスターの構成要素決定、クラスター進化における環境依存性への制限という結果が期待されている。また、国内での観測として県立ぐんま天文台・150cm望遠鏡に搭載されている近赤外線カメラを用いた北天の大質量星クラスターの狭帯域撮像観測も継続している。観測装置不具合などもあり、最新の科学的成果につながる結果は得られていないが、不具合の対処や装置の最適化は実施しており、観測に対応できる体制は整えている。 新しい科学的成果の報告として、これまで得られた観測について国内外で研究発表を行った。さらにそれらを学術論文として公表すべく、連携研究者ともに投稿論文を作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度の研究計画のうち、近赤外ファブリ・ペロー分光器の開発が遅れている。光学素子(エタロン)の設計はほぼ終了しているが、これを走査するための駆動系の製作が完了していない。エタロンは、低温度環境で必要な駆動距離を必要な対面精度を維持したまま変位させなければならないが、そのための駆動系に対する制限がかなり強い。当初はピエゾ素子を候補としていたが、積層ピエゾの低温での動作安定性や耐久性、製品としての低い歩留まり率、高い電圧を必要とするなどの制御系にもクリアすべき課題が多くあることがわかってきた。そこでボイスコイルモーター(VCM)を用いた駆動素子の製作を進めている。VCMは入手済みで単体での性能・特性評価試験の結果、分光素子駆動系として利用の可能性があることを確認した。しかしそこまでに素材の選定・評価、設計に時間を要したことで開発計画に遅れが生じている。 観測データの取得については、観測を計画していたアタカマ天文台の運用体制の制限や観測環境の未整備などの要因から平成26年度は新たな観測は実施できなかった。しかしながら、これまでに取得したデータを用いることで、サイエンスの新たな展開へと議論を進めている。特に近赤外狭帯域フィルターから得られる2色図からは大質量星クラスターの構成メンバーの分類が高精度で可能であることがわかった。また色-等級図から大質量星のサブクラス分類が可能で、さらに同じサブクラスの天体のける絶対等級の幅(ばらつき)を質量放出で説明できること明らかにした。これらの結果は国内外の学会・研究会で報告を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
分光器の製作については、駆動系の概念設計は終了しており、駆動素子の性能評価試験を経て実用機の機械設計・製作に移る。光学素子の設計も終了しているため、駆動系の設計に最適化された素子の製作を進める。それらを組み合わせることで、ファブリ・ペロー分光器が構成されることになり、平成27年度前半はその分光器の製作・性能評価試験を進めていく。 新たな観測データについては引き続き観測を行い取得する予定で、予め計画の準備を進め、観測の機会をうかがう。具体的には、観測時期に応じた天体の選定、観測パラメータの見積もりなどである。国内での観測は公共天文台を利用した観測が中心となるが、連携協力者と情報を交換しつつ、効率のよい観測でデータ取得を進める。 研究結果の公開は学会や国内外の研究会での発表、さらに学術雑誌への投稿という形で行う。特にこれまで得られている観測データを用いたサイエンスの展開が進められており、年度内の投稿・掲載を予定している。これはこれまでのminiTAO搭載の近赤外線カメラANIRによる観測結果で、銀河中心方向、大小マゼラン雲、系内の大質量星クラスターについて新しい知見をまとめたものである。具体的にはANIRの狭帯域フィルターを用いた2色図からクラスターに属する各種天体の構成メンバーが分離できること、可視光では見つけられない非常に「赤い」天体の同定、異なる進化・環境におけるクラスターの2色図の違い、さらにこれまで未発見のWolf-Rayet星の発見などである。
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Causes of Carryover |
平成26年度に分光器のための光学素子(エタロン)を購入予定であったが駆動系製作に遅れが出たために、慎重を期しエタロンの購入を平成27年度に先送りをした。それに伴い分光器実機の製作も終了していないため、その製作費を次年度へ繰り越した。駆動系の製作のための物品については、別の共同研究で購入した物品を試験的に利用しているために、その分の費用が不支出となっている。 旅費についてはチリ・アタカマ天文台の観測が平成26年度に行われなかったために、その分が次年度へ繰り越されている。成果公表のための旅費、解析環境の整備、さらに学術雑誌への投稿費については研究最終年度での計上としており、これは当初の計画通りである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費として分光器の光学素子(エタロン)の購入を行う。また分光器実機本体の製作費も必要である。これには機械系の製作と制御系(電気系)機器の購入も含む。 他には、さらなるデータ取得を目的とした海外渡航のための旅費、分光器製作や観測研究のための議論・打ち合わせのための旅費、情報収集・研究成果発表のための旅費が必要である。観測データ解析のための計算機、データ保存のための周辺機器購入、さらに学術雑誌への成果発表のための投稿費も平成27年度の経費として計上する。
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Research Products
(7 results)