2014 Fiscal Year Research-status Report
チューナブルフィルターを用いた彩層偏光観測装置開発
Project/Area Number |
25400230
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
萩野 正興 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (90437195)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 太陽彩層偏光観測 / チューナブル・フィルター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、京都大学附属天文台で開発中の波長スキャンにより短時間に分光観測を可能にする狭帯域チューナブル・フィルターと本研究で作成する高精度の偏光解析装置を用いて太陽彩層の偏光観測を行う事である。本研究の方針として、次の3段階を計画していた。 (1)チューナブルフィルターと偏光解析装置を性能評価:京都大学飛騨天文台で開発された分光ミュラー行列測定装置(Mueller Matrix Spectro-Polarimeter , 通称MMSP)を用いて装置偏光、特に本研究の心臓部である波長板の偏光特性を測定した。この波長板は光学メーカーと京都大学が共同で開発した広帯域波長をカバーする。この波長板は観測に使用可能な精度を満足していることが分かった。また、このMMSPは国立天文台三鷹キャンパス(真空紫外棟)にも導入し使用できるようにした。 (2)海外大型望遠鏡のバックエンド装置として利用:海外大型望遠鏡とはハワイのマウイ島ハレアカラ山頂で建設が進められているThe Daniel K. Inouye Solar Telescope (DKIST)の口径4mの太陽望遠鏡を想定している。しかし、現存する使用可能な大望遠鏡で、観測条件の良いものとして2015年1月19-30日に中国国家天文台の雲南省撫仙湖天文台の1m太陽望遠鏡を用いて太陽彩層の観測を行った。この観測では太陽フレア(Mクラス、Cクラス)、ジェット噴出現象(エラーマンボム)、フィラメントなどの彩層特有の現象を狭帯域チューナブル・フィルターで観測できた。しかし、偏光解析装置は搬送できなかったため、今回の共同観測での使用は見送られた。 (3)太陽彩層の現象を分光偏光観測し磁場、速度場などの物理量を導出:偏光解析装置をまず、飛騨天文台のドームレス望遠鏡に導入して太陽彩層現象の分光偏光観測を行い、解析手法の開発を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で進めてきた回転波長板による偏光解析装置の開発は装置を構成する素子、回転ステージも揃い、コントロールも可能な状態にある。また、本研究で用いる高速CMOSカメラとの同期もトリガー機能を用いて可能となった。さらに、データが取得できた際に必要となる解析用のソフトウェアの開発も行っている。 平成26年度に京都大学飛騨天文台のドームレス望遠鏡垂直分光器の観測テーブル上に光学レールを設置し、本研究で開発する偏光解析装置と狭帯域チューナブル・フィルターを組み合わせて太陽彩層観測を行う事を計画していた。しかし、フィルター内のソフトウェアでの温度管理が非常に難しく、この部分を考慮した構造設計に時間がかかってしまった。このフィルターを構成する素子の中でも波長選択に重要な方解石は高い温度膨張率であり、屈折率を変化させ、透過する光の波長が変化するため、フィルター内部の温度変化は詳細にモニターされ、管理されるべきである。現在、この構造設計の問題はヒーターを用いて回避されている。 一方、本研究で主に用いるフィルターは510-1100 nm の広い波長で使用可能であるが、テスト観測を行った結果、次のようなハードルがある事が判明してきた。まず、彩層下部で形成されるMg 517nmに対してはこのフィルターの透過幅(Hα 656nmで0.025nm)が広く、周囲の光が洩れこむ。彩層上部で形成される近赤外のスペクトル線He 1083nmに対しては、用いている高速撮像CMOSカメラ(浜松ホトニクス社製 Orca Flash)の感度がほとんどない。これらの理由から次数カットフィルターの関係上、使える波長はHα 656nmとCa 854nmになってしまう。 以上の理由から、平成26年度の目標であった太陽彩層の偏光観測ができる状態に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の波長特定に必要な狭帯域チューナブル・フィルターの開発はほとんど終了し、京都大学飛騨天文台ドームレス望遠鏡や中国国家天文台の雲南省撫仙湖天文台1m太陽望遠鏡などで、実際の太陽彩層観測を開始した。一方で偏光解析装置を太陽観測で使用する準備も概ね整った。 平成27年度は実際に京都大学飛騨天文台ドームレス望遠鏡の垂直分光器室の観測テーブル上に光学レールを設置し、ドームレス望遠鏡の回折限界となるように光学系と本研究で開発した装置を組み込み、太陽彩層偏光観測を行う。フィルターやカメラによる波長選択の制限があるため、比較的磁場に感度のある彩層のHα 656nm(ランデ因子:1.00)とCa 854nm(ランデ因子:1.10)のスペクトル線を使用する。この観測では太陽中心付近にあるフレアなどを頻発に起こさないおとなしい活動領域をターゲットとする。太陽縁に近い活動領域では磁場の三次元ベクトルの座標が回転して解析が困難になることが考えられる。また、活発な領域ではフレアなどで起こる高エネルギー粒子の加速や熱放射などにより、スペクトル線の形が変形する可能性がある。これらの問題はサイエンスとしては重要な研究課題ではあるが、やはり解析上の複雑になり本研究には適さないと考える。 これらの観測と並行して偏光解析のソフトも用意する。観測で得られるのは偏光情報を含んだ像として得られるので、この像の組み合わせから偏光の状態を表すストークスベクトル[I, Q, U, V]を抽出する。 これらの内容は平成27年10月にポルトガルのコインブラ大学で開催される"Ground-based Solar Observations in the Space Instrumentation Era"にて報告する予定である。
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Causes of Carryover |
観測には高速で回転する回転ステージを用いる。この回転ステージに見合った高速カメラが必要である。さらに、本研究で使用する狭帯域チューナブル・フィルターの透過率は10%程度であり、偏光観測を行うためには光量が不足する。このためノイズの少ないカメラを用いて大量のデータを積算して、光量を稼ぐ必要がある。我々は観測用カメラとして浜松フォトニクス社製CMOSカメラ(ORCA Flash)を購入する予定であった。しかし、京都大学飛騨天文台が購入したため必要がなくなった。本研究ではこの新規購入したカメラを使用して遂行する方針となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
京都大学飛騨天文台が所有している浜松フォトニクス社製のCMOSカメラを用いて研究を遂行する。このカメラはノイズが少なく、1秒間に100フレームの撮像が可能である。このためデータ量が膨大になり、データストレージが必要になる。このデータ保存用のハードディスクとUSB接続するストレージボックスを購入する可能性がある。 また、狭帯域チューナブル・フィルターと偏光解析装置の回転ステージを光学レールに設置するための治具を制作する必要が生じた。特に回転ステージは高速で回転するためモーターによる振動を生じることが分かった。この振動に配慮した設計が必要である。さらに、京都大学飛騨天文台ドームレス望遠鏡だけでなく、将来導入の可能性がある大型望遠鏡にも使用できる汎用性の高い設計を考える必要がある。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 狭帯域チューナブル・フィルターを用いた太陽彩層観測2015
Author(s)
萩野正興, 一本潔, 木村剛一, 仲谷善一, 上野悟(京都大学), 篠田一也, 末松芳法, 原弘久(国立天文台), 清水敏文(JAXA), 北井礼三郎(佛教大)
Organizer
日本天文学会2015年春季年会
Place of Presentation
大阪大学
Year and Date
2015-03-18 – 2015-03-21
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[Presentation] 狭帯域チューナブル・フィルターを用いた太陽彩層観測2015
Author(s)
萩野正興, 一本潔, 木村剛一, 仲谷善一, 上野悟(京都大学), 篠田一也, 末松芳法, 原弘久(国立天文台), 清水敏文(JAXA), 北井礼三郎(佛教大)
Organizer
太陽研連シンポジウム「サイクル 24 極大期の太陽活動と太陽研究の将来展望」
Place of Presentation
名古屋大学
Year and Date
2015-02-16 – 2015-02-16
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