2013 Fiscal Year Research-status Report
準位統計の手法による格子QCD+QEDの低エネルギー定数の決定
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25400259
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
望月 真祐 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00362913)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 格子ゲージ理論 / アンダーソン局在 / ランダム行列理論 / 有限温度 / カイラル相転移 / カイラル有効理論 / 国際情報交換 / ハンガリー |
Research Abstract |
本年度は「研究機関内に明らかにする事項」中、(B)有限温度QCD相転移へのアンダーソン局在の影響の解明 を大きく進展させた。研究協力者であるKovacs氏らと共同して、物理点でのNf=2+1 QCDの有限温度シミュレーションによるディラック演算子のバルク固有値の生成を行った。具体的には、高温相(T=2.6Tc)を表す、空間サイズ24, 28, ... , 48、虚時間サイズ4の格子上で、それぞれO(10**3)種類のトラジェクトリについて初めのO(10**3)個のKSディラック固有値を求めた。これらの固有値から準位間隔分布を導出し、局在転移の移動度端を記述することが確立している遷移ランダム行列から解析的に得られる同分布を用いてフィットを行うことにより、スケール不変な移動度端がディラックスペクトル中の特定の位置に存在することを精密に示した。連続理論においてもこの値より小さい固有値に対応するモードはアンダーソン局在しておりハドロン相関関数のスペクトル分解に寄与しないため、この発見はカイラル相転移の機構について重要な情報を与える。私はこの成果を、国際会議LATTICE2013の基調招待講演において口頭発表し、その内容を西垣, Giordano, Kovacs, Pittlerの共著論文として出版した。 また「研究機関内に明らかにする事項」中の(A)に関しては以下の成果を得た:研究協力者である山本氏と共同して、小格子上でのSU(2)×U(1)ディラック固有値(ただしU(1)は非コンパクトな力学場の場合と、背景場の場合の双方)を、U(1)場の結合定数・背景値を細かく変化させながらO(10**4)種類のKSディラック固有値を求めた。この個別固有値分布をchGSE-chGUEクロスオーバーランダム行列からの解析結果とフィットすることにより、O(10**-3)の精度でパイオン崩壊定数を精密決定することに成功した。この成果を日本物理学会2013年秋季大会および国際研究会RMT2013にて口頭発表した。この結果に関する系統誤差の分析を現在進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、(B)有限温度QCD相転移へのアンダーソン局在の影響の解明 については、まさに研究計画所記載の計画通りに遂行することができた。この成果を、格子場の理論の専門家500名が集合した国際会議にて基調講演したうえで成果を出版するに至ったことから、十分な達成度を挙げたものと評価できる。(A)SU(2)×U(1)格子ゲージ理論のパイオン崩壊定数の決定 については、小格子上のクエンチ近似には限るものの、多重フィットのコンバインによって誤差をO(10**-3)に抑えることに成功したことは、掲げた目標をほぼ充足したといえる。論文の出版には至らないものの、口頭発表により研究コミュニティに成果を周知しプライオリティを確立したことは概ね順調な達成度と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
(B)有限温度QCD相転移へのアンダーソン局在の影響の解明 については、研究協力者であるKovacs氏らと共同して、大サイズの格子56**3×4上でのディラック固有値の導出に継続的に当たっている。これにより、熱力学極限への接近が可能となるとともに、ディラック固有モードの多重フラクタル性の直接測定を行い、準位統計からのアンダーソン局在の判定を補強する予定である。(A)SU(2)×U(1)格子ゲージ理論のパイオン崩壊定数の決定 については、まず現有のデータから統計誤差と系統誤差を切り分け、その成果を早急に出版することを予定する。この後で、大格子上およびダイナミカルクォークを取り入れた計算への拡張(遷移カイラルランダム行列にフェルミオン行列式を取り入れた個別固有値分布の解析計算、および格子シミュレーションによる数値計算の双方)に着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
固有値を求める線形計算の並列化のため、研究計画・方法に記載の通りハードウェアを購入した。この際に、当初予定していたNVIDIA Tesla K20を導入する代りに、バス速度とCPU性能を考慮すれば過剰性能とならない範囲でより安価なソルーションとして、既有のMacPro 3GHzのCPU上で24スレッドを同時実行し、GP-GPUはより安価なEVGA GeForce GTX 680を代替に購入して補助的に用いることとした。これにより物件費を抑えつつ研究計画記載の予定とほぼ同等のパフォーマンスを得ることが出来た。このため、345千円の物件費を繰り越すこととなった。 所用の数値計算に対しては「12コアCPUを主体とし、GPGPUを補助的に使用」が有効であることが確認されたので、上記の差額はこのコンフィギュレーションを増設することに使用する予定である。
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