2016 Fiscal Year Research-status Report
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25400265
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中尾 憲一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90263061)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 一般相対論 / 宇宙論 / 非一様宇宙 / ダークエネルギー / 構造形成 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は以下の3つの成果が得られた。 宇宙定数は一般相対論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式に含まれる2つの定数のうちの1つであり(もう一つの定数は万有引力定数)、ダークエネルギーの存在を示唆する観測結果が報告されるまではゼロだと考えられていたが、現在はダークエネルギーの最有力候補である。しかし今後観測精度が上がっていくと、宇宙定数からのズレが有意であると確認される可能性がある。ここで問題となるのは、そのズレがダークエネルギー固有の性質ではなく、我々を中心とする等方的な非一様性の影響である可能性である(前年度までに明らかにされた)。今年度は、宇宙定数の存在する非一様等方な宇宙と宇宙定数ではないダークエネルギーが存在する一様等方宇宙が同じ距離-赤方偏移関係を持つ場合でも、その非一様性が断熱的であれば、宇宙背景放射のゆらぎのスペクトル分布のピーク位置と、バリオン音響振動による銀河分布の非一様性のスケールを3つ以上の赤方偏移で精密に観測できれば、どちらかの宇宙モデルを棄却できることを示した。 宇宙論的なスケールの密度ゆらぎが、天体を形成することなく一気にブラックホールを形成するシナリオが知られているが、物質優勢期における形成シナリオはほとんど調べられていない。今年度は非等方重力崩壊を記述する Zeldovich 近似とフープ予想に基づいた解析を行い、物質優勢期における宇宙論的ブラックホール形成シナリオにおけるブラックホール形成率を明らかにした。 一昨年から始めた高速回転物体の形成可能性に関連し、super-spinning Kerr 時空の線形安定性についての研究を開始した。先行研究では不安定をいう結論であったが、Detweiler の考案した近似法を用いて調和関数の l=m のモードを解析的に調べ直し、境界条件の設定の仕方によっては安定であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブラックホール宇宙モデルについては、当初予定していた方向とは異なるが、物質優勢期における宇宙論的なブラックホール形成の形成率に関する新しい知見を得た。 相対論的重力多体系の研究に関しては、H25, H26年度に球対称な球殻の二体系の数値解析を行い、非自明な相対論的現象である爆縮によるブラックホール形成が起きる条件を明らかにした。H26年度から高速回転する軸対称な球殻の最小サイズについての研究を進めており、H27年度は爆縮によるブラックホールの形成だけでなく、爆縮による超高速回転体 (superspinar) の形成可能性についての研究も進め、H28年度にはその関連で super-spinning Kerr 時空の線形安定性の研究を開始した。この現象は相対論的重力多体系だけでなく、より基本的な相対論の問題として重要な意味を持つ。 H25年度のコペルニクス原理の検証に関する研究については、観測と整合的な非コペルニクス的非一様宇宙モデルである巨大ボイド宇宙モデルにおける銀河団程度のスケールの構造形成過程を摂動計算で明らかにし、銀河分布の二点相関関数の観測を通して、非コペルニクス的な非一様性の存在を明らかにできる可能性があることを具体的に示した。同様の解析を南アフリカの研究グループが異なる近似法で解析し若干異なる結果を得ており、H26年度はその違いの原因を解明した。そして、H27年度は、非コペルニクス的な非一様性が、ダークエネルギーの状態方程式を決定するための観測結果に、どのような影響を与えるのかを解析するとともに、複数の観測量 (距離-赤方偏移、宇宙背景放射の揺らぎのスペクトル、バリオン音響振動スケール) から、非コペルニクス的な非一様性の存在に制限を与えられることを示した。H28年は非一様性が断熱的であれば、非コペルニクス的宇宙モデルが棄却可能であることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
ブラックホール宇宙モデルについては、H25年度に得られた数値シミュレーションの解析結果を参考にしながら、今後は、解析的あるいは準解析的な解の構成をめざす。 相対論的重力多体系については引き続き、無衝突粒子からなる球対称だが、非自明な少数多体系の詳細な解析をカオスの観点から進めるとともに、多体系の時間発展を計算する数値プログラムの開発を進める。また、爆縮による超高速回転体の形成と関連して、帯電した無衝突粒子からなる球殻の少数多体系における爆縮現象の解析を行うべきであると考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は、新規担当授業、大学運営の業務の増加、さらに大型の研究会の開催が重なり、予想定していた研究時間と成果発表の機会が確保できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際共同研究の推進のために、タタ基礎科学研究所(Tata Institute of Fundamental Research, Mumbai, India)への出張に25万円、共同研究打ち合わせのための旅費15万円、情報収集のための謝金に111,070円を当てる。
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[Presentation] On rapidly rotating geometry2016
Author(s)
Ken-ichi Nakao
Organizer
Singularities of general relativity and their quantum fate
Place of Presentation
Banach Center, Warsaw (Poland)
Year and Date
2016-06-27 – 2016-07-01
Int'l Joint Research / Invited