2014 Fiscal Year Research-status Report
超弦とブレーンによる現実的な素粒子模型の構築と標準模型を超えた新物理描像
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25400285
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
溝口 俊弥 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (00222323)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超弦理論 / 素粒子模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子の標準模型を超え重力をも統一する究極理論として超弦理論が提唱されて久しいが、具体的に例えばインフレーション/再加熱後にエネルギーが受け渡されるはずの標準模型セクターがどのようなものなのか、超弦理論は未だ確定することができていない。最近、コンパクト化空間の詳細によらない普遍的な局所的幾何学的構造に基づくカイラル物質場の生成機構を提唱した。これはF理論のブレーンの多重特異点の普遍性に基づくもので、面白いことに、すべてのクォーク・レプトンは単一の例外群超対称コセットシグマモデルに由来するという「世代統一」(family unification)の古くからの考え方を超弦の枠組みで実現することができる。特に、SU(5)ゲージ対称性を実現するブレーンの特異性が局所的にE7にまで多重拡大するようなブレーン系には、現実に観測されるような三世代のクォーク・レプトンに対応する大統一理論の多重項がちょうど局在することがわかり、自然の必然性を超弦から説明する大きな手がかりになると期待される。またこのようなある種の幾何学的配位は、フロガット・ニールセン機構により湯川階層構造の違いや大きなレプトン混合角をよく説明する不均衡 (lopsided) 型の湯川テクスチャを導くことを議論した。さらにごく最近、多重特異点における余計に現れるカイラル場の生成のため一見量子異常(アノマリー)が相殺しなくなるように見える、という問題は、ゲージブレーン上で複数のマターブレーンの接点が合流することにより矛盾なく回避できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上項「研究実績の概要」でも述べたように、素粒子理論としての超弦理論の大きな課題は、インフレーション、あるいは再加熱後にエネルギーが受け渡されるところの標準模型セクターがどのようなものなのか、を確定することである。現在の超弦理論は、多種多様な理論における多くの恣意的な状況設定と微細な調節によって、標準模型ライクな模型を数多く実現することができるが、実際に観測されるような自然がなぜこのようなものなのか、例えばなぜ素粒子の世代は三世代なのか、などのような基本的に答えることはできていない。本研究は、このような超弦理論の基本的問題に答えるために計画立案されたものである。 その具体的アイデアは、多様体の特異点の普遍的な構造に着目して、超弦理論がコンパクト化されうる大きなクラスの空間の詳細によらない、カイラルな物質場生成の普遍的な幾何学的構造を探求し、それを超弦理論のブレーンを用いて実現する、というものである。このアイデアに基づいて、これまでにF理論とよばれる超弦理論の枠組みにおける7-ブレーンの多重特異点、特に特異性が局所的にSU(5)からE7に拡大するような点においてはちょうど三世代のフレーバー多重項が生成されることを見出すことができたことは重要な進展であった。 さらに最近、そのような多重特異点においてアノマリーが相殺しなくなるのではないかという問題が明快な解決を見、実際にそのようなブレーン系が実現して矛盾のない場の理論を導くことが確認できたことは大変重要な成果であり、今後のより現実的な模型構築に向けて理論的基盤を強固にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、F理論のブレーンの多重特異点に局在するカイラルなフレーバーにより自然の由来を説明しようとする本研究は非常にユニークで新しいものであり、またこのような未知の理論の様々な疑問点がひとつひとつ解消しつつあり(例えば上述のアノマリー相殺機構など)、今後のより現実的な模型構築へ環境が整いつつある。 具体的には、これまでの6次元時空における基礎的研究から現実の4次元理論へのコンパクト化の理論研究へ進むことである。現実の特徴的なフレーバー構造の実現やアノマリー非存在等の無矛盾性などを引き継ぐことができる一方、4次元理論におけるスペクトラムは6次元のように幾何学的条件だけからはきまらない(例えばいわゆるG-フラックスなどによる)ということが知られており、より詳細な考察が必要になる。 一方、場にチャージなどの量子数を勝手に与えることができない超弦理論において、フロガット・ニールセン機構のような機構は超弦理論では通常用いられることはまれだが、本研究で見つけられたF理論のE8特異点をもつブレーン系においてはたまたま場がフロガット・ニールセン機構を適用して現実の特徴的な湯川結合を説明できるという、面白い状況になっている。今年度はこのシナリオをさらに精査し、より現実的な理論的適用条件ならびに具体的な実験的示唆が得られるよう研究を進める。さらに、この設定ではアノマラスU(1)のためにFI項が生成する状況にもなっており、それに基づく超対称性破れについても調べたい。
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Causes of Carryover |
当該年度はほぼ概ね使用計画どおりに執行し研究を遂行することができたが、科研費により11月に開催した研究会における旅費補助に辞退者がでたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内旅費として使用する。
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